冬の寒空に太陽が燦々とその姿を輝かせていた。
うっすらと雪化粧が施された庭園は一分のすきもなく手入れが行き届いている。
その庭園を囲むように建てられているのは大きな洋館だ。
実際はこの洋館の中庭に当たるのだが・・なんとも不釣合いな光景−・・
なまじ互いに立派な分、日本庭園と洋館というミスマッチさに少々の違和感を感じ得ない。
中庭と呼ぶには少し広すぎるその中心−・・薄く氷の張った池の横にこれまた異様さを感じる
純和風の平屋が一棟建っていた。
その縁側に男が一人、何をするわけでもなく座っている。
日中とはいえ凍えるような寒ささというのにスーツだけで平然とそこに座っている。
「良い天気だ」
ボキッ−・・
時折、平屋の中から骨のきしむ音と、女のか細い声が聞こえている以外はとても静かだ。
「あっというまに年が明けてしまいましたね。この分だとすぐにでも春がやってくるのでしょうね」
少し風が出てきたようだ。
木枯らしが枯れ木を揺らす。
「この庭も春になれば一面にそれは見事な桜を咲かせるのですよ?・・月夜の里に比べれば
見劣りしてしまうかもしれませんが・・・・そのときは揃いの着物を贈らせてください。」
男は腰を上げると平屋の中へと上がった。
御簾を掻き分け部屋の中へと足を踏み入れる。
中は薄暗い。
時代錯誤な几帳と蝋燭が並べれらその間に倒れるように女性が半裸の状態でうつ伏せになって
いた。
すらりと伸びた手足、以前は背中までしかなかった髪は足元を越すほどに長くなり、黒髪は更
にその色を黒々とさせ、少女だった肢体は女のものへと”変わって”いた。
肌理の細かい白い肌に手を這わせながら男はその体をそっと抱き上げる。
「・・・・・っ」
「きっと美しいでしょう・・・あたかも一本の桜の木のように・・」
うっとりと語る男の腕の中で、女は声にならない悲鳴を上げた。
−・・それほどまでに体を襲う痛みは激しいものなのだ。
「さ・・・わらない・・で・・・体が・・バラバラになって・・しまう・・わ・・お願い・・」
苦痛に苛むその顔に男は困ったように笑んだ。
「貴女の望むなら・・・といいたいところですが・・・・・このままでは風邪をひいてしまいますよ。暫し
のご辛抱を。」
「っ・・」
脱げ落ちていた着物でその体をくるむと隣の部屋に敷かれていた寝床へと女を運び横たわら
せる。壊れ物を扱うようにゆっくりと慎重に・・
「静かにお休みなさい、その痛みもすぐに和らぐでしょう」
乱れ顔はりついた髪をすきながら優しく語り掛けると、その声に誘われる様にその瞼はかたく閉
ざされていった。
その様子に男は目を細め、ゆっくりと顔を近づけるとその真っ赤に熟れた唇に口付けを落とす。
「お眠りなさい、私の愛しい君」
その笑みは至福の笑み―・・だがどことなく歪みを孕んだ笑み。
「月夜姫」
鎖月が龍雪たちの前から姿を消して三ヶ月がたとうとしていた。
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