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「―・・山城の。何故に我が君に時間を取らせた」
神無の詰問する声が山城御前に投げつけられた。
「これだけの無駄な刻を姫様に過ごさせたのだ。それ相応の理由はあるのだろうな?」
「これ、神無・・」
"なければ即刻その首斬りおとすぞ"といわんばかりの神無に対し、鎖月はたしなめる様に
その名を呼ぶがそれでも神無がとまることはなかった。
「如何か山城の」
「ふむ・・神無殿がお怒りになるのも無理もあるますまい」
神無の鬼神の如き気迫に臆することも無くそう受け答えると山城御前は後ろに控えていた
青年に声を掛けた。
「―・・実はコレをおさえますのに少々時間がかかりましてな」
青年が差し出した紫紺の布に包まれたそれを中から取り出していく。
しゅるりと布がとれ、そこから現れたのは小さな木箱。
「お約束の時間もとうに過ぎてしまいましたし、何よりもコレを外へ出すのは少々危険かと考
え、ご無礼を承知の上でこちらにお越しいただいた所存に御座います」
しわがれた手がパカリと木箱のふたを持ち上げる。
中身がさらされ、更にソレが鎖月に見やすいようにとやや斜めに木箱を傾けた。
その木箱に納められたもの―・・それは
「"月光花"―・・!!」
この数ヶ月捜し求めていた月夜姫の神器が一つであった。
*
白い水晶で作られた"冠"
幾重にも細かく重なる花びらはまるで本物の花のよう。
キラキラと光を反射させ輝くその様は手元にあったころと何ら変わらぬ美しさをたもっていた。
「どうぞ、お納め下さいませ」
すっと差し出される。
「龍雪・・」
「はっ」
龍雪がその木箱を恭しく受け取り鎖月の前へと移動させた。
そっと木箱に収められたそれを両手で持ち上げる。
「確かに―・これは私の"月光花"。龍雪、あなたはどう?」
「はっ。私も鎖月様同様―・・それを本物の月光花と判断いたします」
力強く龍雪も肯定した。
「あぁ・・月光花・・」
この数ヶ月探し求めてきたものの一つ。
力を取り戻すためにも・・記憶を取り戻すためにも必要だったもの。
馴れ親しんだ感触に喜びを隠し切れず、はやる気持ちを抑えながらもそれを己の額へと近づけ
ていく。
すると月光花は淡い光を放ちながら、その白い額へと吸い込まれるように消えていった。
じんわりと熱が湧き出てくる。
(あぁ・・戻ってきた・・・やっと一つ・・・・・・・・・・・・・・・・・・?)
ふと、体の中に広がっていく熱を感じながら鎖月は違和感を覚えた。
「鎖月様?」
僅かに眉をしかめた鎖月に一の従者も何かを感じ取ったようだ。
ひゅっ―・・と妙な音がする。
それが短く息を吸い込んだ音だと気付いたは何秒か遅れた後のこと。
びくんっと体がのけぞった。
「かっ―・・は・・ぁっ―・・!?」
「姫様―・・!?」
呼吸が出来なくなった。
まるで地面に背中から叩きつけられたときのように呼吸が出来ない・・
体が熱い。
熱が血管を通って体の中を駆け回っていく―・・
目を見開き体の平衡感覚が一気に無くなっていった。
傾く視界。
「姫様!!」
後ろへと上体を崩していく鎖月の身体を龍雪が抱きとめる。
うすれゆく意識の中、鎖月は記憶の波とともに月光花の"声"を聴いた。
(あぁ・・・・・・・そうなのね・・・・・・・・・・・あなたの半身は・・)
鎖月の意識は闇へと飲み込まれていった。
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