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何処をどう歩いたのか・・

今、鎖月は馴染みのある駅前に立っていた。

そう・・ここはほんの数日前までの"鎖月"にとってはとても馴染みのある場所だった。

屋敷を出て結構時間がたっている。

もう日は高く昼は過ぎているだろう・・

最初は通り過ぎる人の視線が集まり困ったが今は"気"をおさえ目立たなく人ごみの中

に溶け込んでいる。

鎖月のいた屋敷は小高い丘の上にあり、そこを降りて麓の街へと向かった。

だが思い切って出てきたのは良いが、何処へ行けばあの男にあえるのかが分からな

かった。

何の手がかりもなく鎖月は途方にくれていた。

だが動かなければ始まらないと思い取りあえずは電車に乗ってみた。

勿論手持ちの金などない。

だから無賃乗車だ。

気配を消して乗り込んだ。

いけないことだと良心が痛んだが、だが今自分は"人"ではない。

"人"の世界の法則に縛られる必要はないのだ・・と開き直ってしまった。

屋敷のあった街はもといた街からそう離れてはいなかったようだ。

駅で7駅・・それだけしか離れていなかったのだ。

いつもは反対側の車線しか使わないためか窓から見える景色は新鮮だ。

電車に揺られいくうちに、次第に見慣れた景色が近づいてくる。

電車を降り、改札を抜ける。

ほんの数日前までは目の前に広がる世界に確かに自分はいたのだ。

人々が行きかう。昼間でも往来する人の数は決して途絶えることがない。

(このままあのバスにのって行けば学校ね・・)

足を進めて停留所にとまっていたバスに乗ろうかとも思ったが―・・止めた。

―あなたはもう戻れないのですよ。

龍雪の言葉が響いた。

(わかってるわ・・今更・・戻ろうなんて思っていない)

戻ることなど出来ないのだから。

それは私の宿命。

私が私である限り逃れることの出来ない運命。

「さてと・・」

とりあえずここまで何となしに戻ってきてしまったが一体これからどうしようか?

洋子は一体どこであの男に出会ったのか?

彼女が動く場所も限られているはずだ。

とりあえずはこの街を検索すべきか・・

もたれかかっていた壁から身体を離すと鎖月は街中へと向かって歩き始めた。

大通りを行く。

学校帰りによく立ち寄ったお店が沢山並んでいる、それらの前を通るたび多少

感傷的になるものの今はそれらを一切無視して進んだ。

(どこ・・・?どこにいる?)

ただ歩いているだけでみつかるはずもない。

頭ではそうわかっているが、だが鎖月の本能が何かを告げていた。

歩き始めて2時間弱・・

さすがにくたびれ始めた鎖月はもう一度駅に戻りロータリーのベンチに腰掛けた。

(無駄足だったかしら・・・?)

日も傾き始めている。

さすがに龍雪たちも自分はいないことに気付いているだろう。

はやく別の場所に移動して散策すべきか・・

その時だ。

そう考えていた鎖月の前に一台の黒い車が止まった。

「・・・?」

運転席から同じく黒いスーツに身を包んだ男が降り、後部座席の扉を開ける。

「お待たせして申し訳ございません」

後部座席には一人の男が乗っていた。

にこやかな笑みで鎖月に手を差し伸べてくる。

その声。

その仕草。

その雰囲気。

「あなたは・・・・・」

「お迎えに上がりました。―・・月夜姫様」






                        *







「くそっ―・・」

ハンドルを握る龍雪が珍しく悪態をついた。

その運転もいつもより多少荒い。

渋滞している国道を途中で抜け、裏道を猛スピードで走る。

後部座席に乗る葉月王は事故るのではないかと内心ひやひやしながらも鎖月の"探索

"に集中していた。

「葉月、どうだ?」

助手席に座る神無が携帯を片手に後ろを振り返った。

「駄目ですね・・・姫様自身気配を消されてる・・先程までは微弱に感じられていたので

大まかな位置は特定できますが・・・・・今はまったく感じ取れません。」

キィィっと車が大きく右に曲がった。

「うわっ!!」

葉月王が後部座席で倒れた。

神無はしっかりとバランスを保ち、未だ繋がらぬ相手に舌打ちする。

何コール目か。

『どうした?』

やっと相手が出た。

「姫様がいなくなられた」

『あぁ!?マジかよっ!!〜〜〜っあ〜わかった!!俺のほうもすぐ探す』

「そっちは大丈夫なのか?」

『こんな一大事にそんなこといってられっかよ!!何とかするさ。じゃな』

プツリと電話がきられる。

「冷禅は?」

起き上がった葉月王が頭をさすりながら聞いてくる。

「あちらも探索に加わるそうだ。何かあればこちらに連絡が来るだろう」

「―・・葉月、引き続き"探索"を続けろ」

眉間に皺を深く刻んだ龍雪が厳しい口調で命令した。

「了解」

「葉月、私も手伝おう」

神無は目を瞑ると葉月に同調した。

龍雪は更に車の速度を上げる、尚もその表情は険しい。

ぎゅっとハンドルを握る手に力が入った。

(―・・姫様っ!!)