「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・」
「どうしたんですか?灯さん?」
自室にて盛大に溜息をついた私を見て洗濯物を置きに来ていた雅代さんが”あらまぁ”という
顔でこちらを凝視していた。
「いぇ・・・まぁ・・・・そんな大したことじゃないんですけどね・・」
私的には滅茶苦茶大したことなのだが、いかんせん話す気にもならなかった・・というのが現状
なのだが・・
最後の方はから笑いで終わっている。
「ふふっ。お若いから色々と悩みもあるんでしょうね。うらやましいわぁ・・私もその頃に戻りたい」
何故か雅代さんが楽しそうだ・・
うぅ・・変われるもんなら変わって欲しいですよ・・・
「ところで灯さん、ここの暮らしには慣れましたか?」
「えぇ・・まぁなんとか。」
・・・というか慣れなきゃ生きてけないでしょ・・ここは・・・
雅代がふふふっと再び嬉しそうに笑った。
「そう。それはよかった。私も最初はどうなることかと思いましたけど・・思ったより灯さんも秋宮家
に馴染んでいらっしゃるようで安心しましたわ。」
「ははははは・・・」
(”馴染んで”・・・ね・・)
傍から見たらそうなのだろうか?
(うぅむ・・・あれを馴染んでいるというのはどうかとも思うけど・・ていうか私当初の目的忘れてない
?)
「そういえば・・」
うむむ・・とあらためて今の自分の置かれている状況について考え始めた灯の横で雅代の穏やか
な声が言葉を続けた。
「灯さんはあの三人の中で誰かお好みかしら?」
ゴンッ
思い切り壁に頭をぶつけてしまった。
「あらあらあらあら・・・」
「なっ―・・ななななぁんでいっいきなりそんなことぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉ?????」
唐突にそれは無いだろう。
ヒリヒリと痛む側頭部を撫でながら動揺して呂律のまわらない口で言葉をつむぐ。
「あら、だって灯さん、もう説得さなされるのは諦めたんじゃないんですか?」
うっ・・・
やっぱり雅代さんも私と同じことを思っていたらしい。
確かに・・あの親子にこの話をなかったことに・・という説得をするのはどうやっても無理だということ
は最初の三日間で嫌と言うほど思い知らされた。
話をしようにも上手いことはぐらかされてしまうし・・何せ全員が全員、あの性格だ。
あっというまに会話の主導権を握られ、あれよあれよというまに強制的に頷かされるのだ。
こんなに押しが弱かったはずではなかったつもりだったが・・・ここは特殊なんだと痛感することが幾
度あったことか・・・
でもだからといって完全に諦めたわけでもない。
一応晶兄ぃは味方につけているわけだし・・・
別の方法で何とかするしかないのだ。
「まだあきらめたわけじゃないんで・・・」
「あら?そうなんですか?」
「あれぇ〜まだ諦めてなかったんだ。」
「わっ!!」
突然響いた第三者の声にびっくりして振り返る。
「あら、晶さん。」
いつのまに来たのか戸口に晶兄ぃが寄りかかって立っていた。
「ども、雅代さんv」
相変わらずの笑みを浮かべながら晶は部屋の中へと入っていく。
「がんばるねぇ、灯ちゃん。うんうん、そういう所健気で可愛いなぁ〜。だから俺も守りたくなっちゃ
うんだよねぇ。よしよし。」
なでなで・・・って私は幼稚園児じゃないのよっ!?ちゃんとわかってる晶兄ぃ!?
「―・・でもさぁ現実問題、このままだと灯ちゃんどっちかと結婚確実・・・・ってことになりそうだけど?」
「うっ・・・」
「灯ちゃんって結構押しに弱いよねぇ。人がいいって言うか。強引に迫られたらそのまま・・・・って感
じになっちゃうかもよ?」
「そっそんなことは・・・・・・っ」
ない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・とはいえないかもしれない。
やばい・・あらためて考えると相当ヤバイ状況だよコレは。
司は紳士的だから”そういった心配”は当分無いにしろ―・・問題は密だ。
あの過度の”スキンシップ(本人曰く)”がこれ以上度をましたら・・・・・・・・・・・・・・・・
その先を考えて思わず視線が遠い所へといってしまった・・
「灯ちゃ〜ん?トリップしたら駄目だよぉ?」
晶兄ぃののほほんとした声が頭の片隅に響いてくる・・
「ねぇ灯ちゃん―・・」
何よ晶兄ぃ・・私は今とても現実逃避したい気分なのに・・・・・・・
「―・・いっそのこと俺と結婚しちゃう?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
え〜っと・・・・・・・
神様、激しく現実逃避に走っても宜しいということなのでしょうか?これは。
ずいっと晶が身を乗り出してくる。
「だって〜どうあがいたって俺たち三人の内一人と結婚しなきゃいけないんだから、それなら一番灯
ちゃんにとって”安全な”俺がいいと思うけどぉ?」
「晶兄ぃ・・・・・・・・・・・・・・本気でいってる?」
晶兄ぃが身を乗り出してくることによって徐々に壁際に追い詰められている・・・
「うんv本気も本気。」
あああああああああ・・・その笑った顔って何だか最近よく私の周りで頻繁に見かけるんですけどぉ
ぉ!!!
「俺は灯ちゃんが嫌がるようなことは絶対にしないし、ちゃんと大事にする自身はあるよ?」
「っっっっっ!!!!!」
晶兄ぃって絶対タラシだ!!そうに違いない!!
灯の顔は赤面・・・・というかもはやすでに茹で上がったタコ状態だ。
口も金魚のようにパクパクと動いている。嫌な汗かきまくりだ。
「ね?灯ちゃんどうす―・・」
「晶さん」
ぱこん。
乾いた・・気の抜けたような音がする。
音がした方を見ると晶の後頭部にピンクのスリッパが打ち込まれていた。
そのまま視線を落とすとにこやかに・・・・・だが何とも迫力のある笑みを浮かべて雅代が立っていた。
「晶さん、若いって素晴らしいことですわね。でも真昼間から盛るのははしたないですよ?ふふふ」
あわわわわわわ・・雅代さん最後のふふふとか全然笑ってないんですけどぉ!?
「あはは〜冗談だよ冗談。もぉ〜雅代さんってばそんなにらまないでよぉ」
晶兄ぃもそんな雅代さんに気圧されたのか(多少ではあるが)笑みが引きつっていた。
「晶兄ぃぃぃぃぃ?」
この際だから私も便乗させてもらおう。
げしりとそのスネに蹴りを食らわせてやる。
いくらいつもの晶兄ぃの冗談だとしてもこの人の”冗談”は”冗談に見えない”からたちが悪いんだ・・
「ごめんごめんっ・・・・!!本当ごめんってば!!」
前後から責められ途方にくれる晶。
「だってぇ、灯ちゃんってばからかうと本当おもしろいんだもん♪」
・・・・・・・・・・・・・あぁそうですか。にこやかにそんなことをいいやがるアンタを今すぐこの場で張っ倒し
たい衝動に駆られる本能をかろうじて残った理性で押しとどめた私はすばらしいと思いませんか神
様?
・・・・・・・でもやっぱむかつくからもう一回蹴っちゃえ。
「あああああああ!!!!そうだ!俺灯ちゃんに用事あってここにきたんだよ!!」
「・・・・・・なにそのとってつけたような言い草は。」
「まったくです・・晶さん。これだけ灯さんをいじめておいて今更話をすり替えようなんて虫のいい・・」
女性陣二人がはぁぁ・・と同時に溜息をついた。
「雅代さんまで!?ちがうっそれは誤解だよっ!!・・・・・・・ってこんなことしてたら俺の命が更に危う
くなるな・・」
「・・・・・?」
ちょいちょいっと晶が灯にむかって手招きをする。
多少警戒しながらも近づいていくと晶は更に灯のこれからの一日を大変にするような”爆弾”を投下
してくれた。・・・・・・・・ありがた迷惑だが。
「―・・密が呼んでるよv」
その後に晶と雅代から”がんばって!!”と言葉を投げかけられたがそれがどうしてだか”ご愁傷様”
に聞こえたのは灯の気のせい・・・・・・・ということにしておこう。
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