成程。
絶景というのはこういうことを言うのだろう。
「わぁ・・・・・」
自然と口から感嘆の言葉がこぼれる。
「凄いでしょ?」
隣で密がにこりと笑って目の前に広がる景色に驚く灯の顔を覗き込んだ。
色とりどりの色彩が辺りを埋め尽くしている。
そのどれもが互いを強調しあい、色は多いが決してけばけばしくは見えず、何とも上品に
咲き誇っていた。
ここは学園の隅に位置する時計塔(さすが金持ちのつどう学園・・こんなものまであるらし
い)の真横に位置する温室。
普段生徒は滅多に寄り付かない場所なのだそうだ。
勿論今もそこいるのは密と灯の二人だけ。
「こんな外れまでわざわざくる生徒は少ないですからね。ここなら静かだし・・年中何かしら
咲いてるから景色には飽きないんですよ。」
苦笑しながら密は行った。
"ここなら静かだし・・"の言葉に灯は人気者もやっぱり気苦労はあるんだろうなぁ・・と感じ
いってしまった。
「灯さん、こっちこっち。」
見た目とは裏腹に入り組んだ温室をなれた足取りで密は進んでいく。
暫くすると少し開けた場所が出てきた。
下には芝生がひかれており先を進んでいた密はそこに腰を下ろした。
「あっ、大丈夫?何だったら椅子とかありますけど・・」
立ち上がろうとした密に灯は大丈夫ですと首を振った。
「折角こういうところで食べるんだからピクニック気分を味わいたいじゃないですか。」
その横に腰を下ろす。
堅苦しく椅子に座って食べるよりはこうやって足を伸ばして食べる方が気持ちがいいもの
だ。
ガラスの天窓からこぼれる日の光が暖かくて更に気持ちがいい。
「気に入ってもらえましたか?」
「はいっ。」
こういう所に連れて行ってもらえるとは思わなかった灯はさっきとは裏腹に上機嫌だ。
口に頬ぼった卵焼きがこれまた・・
「ん〜・・・vおいしい〜v」
ありきたりな表現かもしれないが"ほっぺたが落ちそうなくらい"おいしい。
とろけるような甘さ・・絶品だ。
色鮮やかに盛り付けられているおかずに次々に箸がのばされる。
これもこれもこれもこれも・・・・・・・・・・・・・・ぜ〜んぶおいしいv
「あはは、灯さん本当においしそうに食べますね。でもそんなに慌てて食べなくてもお弁当
は逃げないですよ?」
密が横で苦笑している。
そういわれると少し恥ずかしくなってしまった。
うっ・・・確かに・・でもだっておいしいんだもん・・
「うん。でも本当においしいね。」
横でおかずを口に含んだ密も満面の笑顔で感想を述べた。
「雅代さんの腕もさながら・・灯さんと一緒に食べるお弁当はもっとおいしく感じられますよ
。」
「はは・・そうですか。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あぁもうなんでそう恥ずかしいことをさらっといえる
かなこの人は。
思わず空笑いしてしまった。
さて・・・しかし実に不思議なものだ。
灯は何気ない世間話をしながら、ふと密の端正な横顔を眺めた。
さらさらとした髪。
女の私よりも肌理(きめ)が細かいんじゃないかと思われるそのなめらかな肌。(男の人に
こういう表現はアレかなとは思うが実際そうなのだから仕方がない・・悔しいけど。)
よく見ると睫も長い・・
涼しげな目元はかけている眼鏡でも覆い隠しきれないほど綺麗で魅力的だ。
見れば見れるほど不思議でしょうがない。
何故こんな人がこの私の婚約者(の一人)なんだろうか?
・・・・・・・・・・いくらあのおじ様が決めたこととはいえ逆らえなかったわけでもないだろうに。
親同士の"約束"のためとはいえそれに従う義理はないはずだ。
この兄弟ならばもっと相応しい相手が選り取りみどり・・・
「?どうかしましたか?」
灯の視線に気付いた密が首をかしげる。
「えっ!?あっえぇっと・・・なんていうか・」
「?」
「今回の話・・密さんたちにとってもいい迷惑だったんだろうなぁ・・と思って。」
はははと申し訳そうに笑いながら頭をかく。
「密さんたちなら絶対もっとお似合い方達がいると思うんですけどね〜。こっちも援助して
もらって助かりますけど、何もこんな昔の"約束"を持ち出さなくても別の方法があるんじゃ
ないかなぁ・・これじゃ密さんたちにも迷惑かけまくりで。本当すいません。何か巻き込んだ
みたいなことになっちゃって。私がもうちょっとましな顔だったら良かったんですけどね〜、
はははは。」
「僕は全然迷惑だ何て思ってないですよ。」
「ですよね〜。やっぱ私みたいな凡人じゃなくてもっと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・て、え?」
「灯さんにとっては迷惑な話かもしれませんけど僕は本気ですよ。」
「え?えぇ?」
あの・・・密さん?
何か距離が縮まってやしませんか?
(あわわわわわわわわっっ・・・!!というか確実に縮まってきてるし!!)
「あ・・・あのぉ?密さん・・・?」
密はゆっくりと灯との距離を縮めながらその眼鏡をはずした。
・・・・・・・って何ではずすのよっ!?
「灯さん、晶兄さんに対してあんなに打ち解けた口調なのに何故一番年の近い僕にはそんな
言葉遣いなんですか?」
「へ?あぁぁっすいませ・・じゃなくてごめんなさいっ。」
ガラス越しじゃない、直に密の瞳と目が合った。」
・・・・・・・・・・・・・何か目が怖いんですけど密さん。
さっきまでと雰囲気が何か違いませんか?
「じゃ、僕の名前を呼んでみてください。勿論呼び捨てで。」
あぁぁぁぁぁぁ
何でそんな人の悪そうな笑みでこっちをみてるのよぉぉぉぉぉ!?
さっきまでの天使のような優しい笑みは何処へ!?
逆らわぬ方が無難と判断する。
「わかった!わかったから!!密!ね?これでいいでしょうっ?だから離れ・・」
ずぃっと更に距離が縮まった。
顔がほとんど触れるような位置だ。
顔が真っ赤に染まっていくのがわかった。
いくら私でもこんな間近に美形の顔があったら赤面するわよっ!!
「ねぇ?灯さん。"青いリボン"って覚えてますか?」
「は?えっ・・何?それ・・・?」
突然何を言い出すのか。
こっちは赤面しまくり、心臓ばくばくさせまくりの大変な状況だというのに・・
「やっぱり・・覚えてないんですね。」
「え?あ・・あのぉ・・?密・・・?」
目の前の俯く密は何処か落胆しているように見えた。
少し心配になってすぐ側にあるその顔を覗き込もうとする。
「大丈夫?どうかしたの?」
「-・・灯さんは僕のこと嫌いですか?」
「わっ!!」
突然顔を上げたのでびっくりしてしまう。
その顔には先程と打って変わらぬ不敵な笑みが・・
「嫌いですか?」
「いっいや・・嫌いじゃないけど・・」
「じゃ、いいじゃないですか。」
密がにっこりと笑った。
その笑みはまるで悪魔の笑みのようで・・
「そっそういう問題じゃなくて!!あ〜・・なんていうかなぁ・・・」
とりあえずこの状況を脱しなければ。
昨日晶兄ぃにも離したようなことを密にも早口でまくしたてて伝えた。
「あぁ・・成程。つまり灯さんは恋愛から婚約、結婚へとちゃんと段階をふんでいきたいと?」
「まっ・・まぁそういうことになるのかなぁ・・・?」
「灯さん、今付き合われている方はいないですよね?」
残念ながらここ2.3年思い当たる人物は皆無だ。
「あっ・・えぇまぁ・・いない・・けど。」
「好きな人は?」
・・・・もちろん
「それも・・・いない。」
「じゃ尚更、何も問題はないですね。」
「へ?」
後ずさりしようとする灯を阻むように密の手がその肩を優しく掴む。
「僕は灯さんのことが好きです。」
「へっ?あっ?・・・・・・うぇっ!?」
思わず声が裏返ってしまった。
今・・・何とおっしゃいましたか・・・?
「だったら灯さんも僕のことを好きになってくれれば何も問題はないですよね?」
「えっ?えぇっ・・?」
にっこりともうお馴染みになってしまった"悪魔的"な笑みを浮かべて密は囁いた。
それは灯にとっては宣戦布告も同じ。
「―・・そのためだったら僕は何でもしますよ。覚悟・・してくださいね?灯さん?」
もう頭の中が真っ白だよ・・・
戻 進