婚約者たちの裏と表。1

「灯さん、放課後は何か予定はありますか?宜しかったらご一緒に夕食で
も・・」

「ははは、駄目だよ司兄さん。放課後は僕が学園を案内することになって
るんだ。予定は一杯一杯だよ。それに夕飯は家族全員で揃って食べなく
ちゃ。抜け駆けはいけないなぁ。」

「密、そういうおまえこそ何ちゃっかり、灯さんと放課後を過ごそうとしてるん
だい?学園の案内なら昼休みでも充分だろう?寄り道せずにすぐに家に帰
って来るんだね。」

「さぁ?どうかな?何せ学生は急がしからね。」

「社会人ほどじゃないだろう?ははははは。」


怖い・・

今、灯は二人の兄弟に挟まれて硬直している。

何なの・・!?この兄弟は!?

顔は笑っているが、その仲がよさ気な会話の端々には刺々しさが伺えた。
本来ならばさわやかな朝を向かえ、通学、出勤する時間帯なのだが・・
秋宮家の玄関では膠着(こうちゃく)状態が続いていた。

「・・・・・・・・・なにやってんの。」

笑みをたたえながらお互いいっぽも譲らないで睨み(?)あっている二人の背
後に巨大パイソンVs巨大ボアの姿が見えた・・そんな時。
どうしていいか分からず一人あせっていた灯の背後に晶兄ぃが現れた。

「あっ、晶兄ぃ。おはよう。」

「「"晶兄ぃっ"!?」」

「うん、あはよう灯ちゃん。・・・・・・あぁ二人ともそんな今にも瞬殺しそうなぐら
いの勢いで俺のほう見るの止めてくれないかなぁ?」

声をはもらせてこちらを振り向いた二人の兄弟に対してまぁまぁおちついてと
爽やかな笑みを崩さずに晶は宥めた。

「大丈夫だって。前もいったろ?俺はこの件には参加しないって。灯ちゃんと
は兄妹も同然の中なだ〜け。」

その説明に二人は渋々と納得したようだ。

「はいはい。いつまでもこんなとこにいたら遅刻しちゃうよ?司兄さんも密も。
さぁでたでた。」

「あ・・あぁ・・」

「わかったって・・」

二人の背を押しながら晶がにっこりと灯に笑いかける。

(たっ・・助かった・・)

まったくもって晶兄ぃさまさまだ・・



                      *



朝のどたばたから小一時間・・
灯は密と共に新しい学校へと来ていた・・いや、学園といったほうがいいか。
さすが関東一ともいえる金持ち学園・・
外見もさることながら、そこに通う生徒の顔ぶれも"金持ちの子息子女"という
雰囲気をかもし出していた。
そんな中、私は特に目立っているだろう・・

さっきから視線が痛い・・

只でさえこんな所場違いだというのにその上更に・・

「灯さん、職員室はこっちですからね。」

密が灯を先導する。
それが余計に生徒達の視線を集めていた。

「何ですの?あの子・・」

「密様とご一緒なんて・・」

「見た事がない顔ですけど・・」

聞こえてくるざわめきの大半は女性のモノだったが男性生徒もざわざわと何か
話している。
やはりかの有名な秋宮家の三男で、これだけの容姿を持っていれば人気もあ
るのだろう。

(だって"様"付けされてるし・・)

こういう場合。
この先の周囲の反応が容易に予測できる。

(はぁ・・・今の私にゆっくりと落ち着ける場所なんてないのかしら・・?)




職員室へとつれられそのまま密とは別れる。
そして二学年の教室へと連れられそのままあっという間にお昼休みへと突入し
てしまった。
教室内は至って静かだ。
馬鹿騒ぎする輩もいなくやはり"金持ち"独特の空気が流れていた。
彼らもこんな時期に転入してきた庶民の空気かもしまくりの私に興味はない(と
いうか関わる暇も惜しい)のだろう。話しかけてくることさえなかった。

(まぁ別に下手に構われるよりはこうやって空気同然に扱ってくれた方がこっち
も気が楽なんだよね〜・・)

第一こんな住む世界が違う人たちと一体どんな会話をすればいいのか分からな
いし、一々会話するのも面倒だ。

(さて・・ご飯は何処で食べるか・・)

ここには当然学食があるらしいが、灯には朝、雅代がもたせてくれた弁当があ
る。
教室内で食べてもいいが、折角の雅代のおいしいお弁当を(朝ごはんも雅代さん
の手作りだったが本当においしかった)こんな気がつまる所ではなく別の開放さ
れた空気の中で食べたかった。
幸い昼休みは一時間ある。
校内を見学がてらそういった場所を探すのも一興かもしれない。
よし、そうと決まったらさっさとここから出て行こう。
お弁当の入った鞄を持って灯は席を立ち上がる。
だが、そんな灯の行く手をさえぎる者が現れた。

「ねぇ、鳥越さんちょっと・・」

まだ名前は覚えてないが初めてクラスの女子が話しかけてきた。
その顔は何だか怪訝そうにしかめられている。

「・・?何?」

「・・・生徒会長があなたのことお呼びなんですけど。」


生徒会長?
それはつまりこの高等部の生徒会長―・・三年生であって・・

私・・この学園の高等部の生徒会長に知り合いっていたっけ・・??
しょうがないので教室の入り口まで歩んでいく。
そこにいたのは・・

「こんにちわ、灯さん。」

"爽やか"を画に描いたような密がいた。

「灯さん、どうですか?クラスのほうは」

「えっ・・?あっ・・あ〜まぁ・・何とか。」

生徒会長って・・
そういえば密さんは三年だったなぁ・・

美形+お金持ちの優良物件にさらに"優秀な生徒会長"という肩書きが+aされる。

(それは人気も絶大なものになるはずだわ・・・)

今も教室の中や廊下にいる生徒からは興味津々といった感じで視線が送られて
くるし中にはあからさまに敵意を持った―・・嫉妬の目で見てくるものもいる。

うっ・・・痛い・・

「あの・・それで何か御用でしょうか?」

はやくこの状況を脱したい。
お願いだからこれ以上この痛い視線を増やさないで欲しい・・

「お昼。まだですよね?」

「えっ?えぇ・・」

「一緒に食べませんか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へ?」

こらこらこらこらこら・・・
ほら、今のあなたの台詞が聞こえたと思われる複数の女子の視線が更に殺気を
帯びたものになってるんですけど・・

「いっいや!でもほら、密さんは学食じゃないんですかっ?」

「うん、いつもはね。でも僕も今日から雅代さんにお弁当作ってもらうことにしまし
たから。」

ほら。と片手に持っているバッグを掲げてみせる。

「一人で食べるのもあれですし、ね?一緒に食べましょうよ灯さん。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

どうこたえればいいのか・・
ここで受けたら殺気の度合いは増すような気もするが、断ったら断ったで別の意
味で殺意を向けられるかもしれない・・
ではどっちを選択したほうが生き残る確立はちょっとでも多くなるか・・

「ね?僕、いいところ知ってますから。」

「あっ・・・・あの・・・・・」

「ね?」

「・・・・・・・・・・・はい。」

あぁ何かまたこのパターン・・
密さん・・確かにあなたは雅人さんのお子さんですね・・
そのつい最近どこかで見たことのある笑顔がいやになるぐらいそっくりです・・・

そして私は好奇の視線と溢れんばかりの殺気のこもった嫉妬の視線を一斉に浴
びながら密さんと一緒にその場所を後にした。




あぁ・・・


何か私、この二日ほどで根性がなくなってきているような気がする・・・