「―・・灯ちゃん起きて〜。朝だよ〜。」
耳元でそんな声がした。
私は寝返りを打つ。
「・・・・・・・・まだ寝る・・」
声の人物が苦笑した。
「休日だからって寝すぎは身体によくないよ〜。ほら起きて起きて。」
「もぅっ・・五月蝿いなぁ・・明子ってばなんでそんなに早起きなのよ・・」
ルームメイトの名を口にする。
「ははっ・・灯ちゃん寝ぼけてるね〜。」
「寝ぼけてなんか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そこでハタと気付いた。
ガバリと起き上がる。
目の前には朝から目にするには勿体無いほどの美形の笑顔。
次男の晶だ。
茶色に染められたサラサラの髪が朝日に反射してキラキラと輝いている・・
「おはよう。」
満面の笑顔でそういわれて・・・・・・・
「えっ?あ?うぇ!?」
激しく動揺した。
「おっおおおおおおおおおおおはようございますぅぅぅぅぅ・・・・・・?」
語尾が何故か疑問系だ。
(そうだよ!昨日あのまま泊まっちゃったんだよ・・あぁぁぁ!!というかこの
状況はあまりにも悪すぎる!おいしいけど心臓に悪すぎるよ!!)
朝から嫌な汗をかいてしまった・・・
「大丈夫?何かさっきから顔が赤くなったり青くなったりしてるけど?」
ずいっと晶が顔を近づけてきた。
「だっ大丈夫です!!」
それを慌てて押し返す。
原因はあなたです。なんていえるわけがない。
「そう?―・・でも本当になんかあったら遠慮無しにいってくれていいからね
?もう家族も同然なんだから。」
「あ〜・・そのことなんですけど・・」
"家族同然"
その言葉に今自分の中でもっとも最優先とされるべき事項を思い出した。
・・・・・・・・・・・う〜ん・・昨日は流されに流されまくったからなぁ・・
この際、おじ様に真正面から突っ込むのは止めて周りから固めていくのが妥
当じゃないかな・・・・?
などと考えてみる。
「ん?何?」
「援助してもらっていてなんなんですけど―・・やっぱり私」
「結婚は嫌?」
「はい。」
真剣な顔で頷く。
さて・・・・・・どういう反応が返ってくるか・・
「だよね〜。」
「・・・・・・・・・は?」
「本人の意思も関係無しの結婚はいけないと思うよ俺は。うんうん。それに俺
は灯ちゃんのことどっちかっていうと"婚約者"っていうより"可愛い妹"ってい
う感じのほうが強いから〜。」
破願して晶はそういった。
これは・・・・・・・・一応味方宣言と捉えてもいいのだろうか・・?
「あの・・・晶さ―・・」
「"晶お兄ちゃん"vって呼んでくれると俺は嬉しいなぁ〜。もしくは"晶兄ぃ(し
ょうにぃ)"。あっ後俺に敬語は必要なしだから・・ね?」
・・・・・・・・・・・・どちらかというと後者だろうなぁ・・
「じゃっ・・じゃぁ晶兄ぃ・・」
「うん。何?」
嬉しそうだ・・本当に嬉しそうだ・・
「晶兄ぃは私の味方って事で・・・いいんだよね?」
「うん。そう。俺は灯ちゃんのことを本当の妹みたいに大切にするし出来る限
りのバックアップはしていくよ。」
あぁ!なんていい人なんだあなたは!!
暗い暗い地下に微かに日差しが差し込んできたようだ―・・!!
(よし!これならいける!!)
「じゃあ晶兄ぃ!雅人おじ様を説得するのも手伝って―・・」
だが現実はそうそう甘いものではないらしい。
「―・・あげたいんだけどね・・この話自体を無しにするっていうのは難しいか
もよ?」
「へ・・・?」
「だってほら―・・」
晶が部屋の中を見渡した。
私もそれにつられようやく寝泊りしていた部屋の内装を落ち着いてみることと
なった・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?
何か・・・見たことがあるようなものがこうちょこちょこと置いてあるきが・・
「親父、結構強引な所があるから・・・・・学校の方もね―・・」
困ったように(本当に申し訳なさそうな顔をしながら)晶がいったその先の言葉
に灯は自分の中で何かが崩れ落ちる音を聞いた・・
*
「―・・雅人おじ様!!」
食堂へのドアを開けると雅人は日曜だって言うのに出勤なのか、スーツ姿で
優雅に珈琲をすすりながら新聞を読んでいた。
さながら英国貴族のようだ・・
「ん?あぁおはよう灯ちゃん。今日も朝から元気だね。」
「おはようございます―・・ってそうじゃなくって!!」
失礼なのを承知で私は雅人おじ様に詰め寄った。
もうどうにかして穏便に事を進める気はさらさらなくなってきた・・
「どうして勝手に退学手続きをするんですか!!しかももうすでに次の学校に
編入手続きもしてるって―・・」
「あぁ・・後で話してビックリさせようかと思ったんだけど・・もうばれちゃったか。」
「”ばれちゃったか"じゃありません!!いくらなんでもこれは酷すぎますー・・!
!」
よし。こうなたら勢いに乗ってしまおう。
「この際だから言わせてもらいますけど私、勝手に決められた"約束"ごとのせい
で結婚するなんて絶対にいやです!!私は自由恋愛主義なんです!!父さん
の会社を援助してくれたのはすっごく感謝してます!!でもこういう取引はどうか
と思います!!必ず別の方法で援助していただいたお金はお返ししますから―・
・!!」
よし!いった!!
いいきった!!えらいぞ自分!!
「う〜ん・・そうだねぇ。」
お・・・・?脈ありですか雅人おじ様!?
やっぱり最初からこうやって体裁を気にせずにがーっといってしまえばよかっ・・
「じゃあ灯ちゃん的にはちゃんと"恋愛"に発展すればいいんだよね?」
「は・・・・・?」
あのぉ〜・・・今・・なんか変な解釈しませんでしたかおじ様?
「ちゃんと"恋愛"してさえすれば息子達と"結婚"してくれるんだよね?」
「へ?は?・・・・・・・えぇっ!?」
どうしてそう話をややこしくするかな・・
「あのっだからそういうことじゃなくて―・・」
「ね?」
有無をいわせず笑顔で雅人おじ様は首をかしげた。
「・・・・・・・・」
「ね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい・・」
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!
根負けしてどうするのっ私っ!!
後から追いついてきた晶兄ィは
「だからいったでしょ?親父は強引だって・・」
と私の頭をポンとなでながらそういった。
ご愁傷様という言葉をつけたして。
かくして私は否応なく秋宮家の三人の息子達の"婚約者"となってしまった・・
あぁ・・・本当にわたし・・どうなっちゃうんだろう・・
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