秋宮家はとにかく無駄に金持ちだということが分かった。
あの素晴らしく大きく立派な正門をくぐってから数分・・・・
車も速度を落として走行しているがそれでも本宅に着くまで大分時間を要した。
庭もとてつもなく広い。
昔ながらの日本庭園が延々と続いている。
橋のかかった池まであるときた・・・
「灯さん、着きましたよ。」
その光景に呆けていた私に雅代さんが(もう既にお馴染みとなっている穏やかな
笑い声を立てながら)そう声を掛けた。
早田さんがドアを開け、外へ出るように促してくれる。
「うわ・・・・」
思わず口からこぼれた驚愕と感嘆の声・・
(どこの武家屋敷よ・・ここは・・・)
テレビでよく見る武家屋敷・・・・・・・いや、現代ならば高級旅館に似ているといった
ほうがいいだろうか。
大きな屋敷。
古いが、高級感を漂わせまくっている。
そしてこれまた素晴らしいつくりの玄関(庶民の私にとってそれしか表現する言葉が
みつからないのよ・・・)
その玄関から私が降りた車の間の道の両脇に男女二十名ほどの人が整列してい
る。
(なっなにこれ・・・!?)
着物を着込んだ女性と、早田さんと同じようなスーツを着た男性達が一斉に頭を下
げた。
「「お帰りなさいませ」」
「うぉっ・・・・・!?」
「はい、皆さんご苦労様。さっ灯さんこちらでございます。」
それに怯む私とは正反対に雅代さんは、その間を臆することもなく進んでいく。
さすが金持ちの家政婦・・などとよくわけのわからない見解で納得した私はその後ろ
を慌ててついていった。
外もさながら中も凄い。
灯は雅代に連れられ応接間へと連れてこられる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・一体何畳あるのだろうかこの部屋は・・
屋敷の中は多少改装されているようで、この応接間も洋室となっている。
幾つ0がつくのか分からないような調度品が品よく並べられるこの部屋の中で灯は
少し居心地が悪かった。
「旦那様をお呼びして参りますので暫くお待ちくださいね。」
そういって雅代は部屋を出ていてしまい今は一人きりだ・・
皮の豪奢なソファに座っているだけで何もすることがなく暇なのだが、かといって下
手にこの部屋を歩くのは逆に危険だと思った。
・・・・・・・・・一歩間違えれば借金が増えかねない・・
仕方ないのでだされた紅茶を大人しくすする。
しかし想像以上の金持ちだ・・
一体なんでこんな金持ちとあの両親が知り合いなのかが謎だけども・・・・・・
(ん・・・・・・・?)
ふと私はそこで一つ思い出したことがあった。
(秋宮家・・・?秋宮・・・どっかで聞いたことがあるような・・)
秋宮あきみやアキミ・・・・・
"雅人さん"
(―・・って"秋宮雅人"!?こないだテレビに出てたあの人っ!?)
こないだたまたまワイドショーでやっていた特集か何かで出演していたはずだ・・
いまや日本を代表する財団の一つ。
金持ち中の金持ち―・・秋宮財閥の総帥・秋宮 雅人 。
父親の会社を立て直すぐらいの資金なんて彼の資産に比べたら味噌っかすのよ
うなものだ・・
(うわぁ・・本当に・・・?何で?何でそんな凄い人が・・・っ!?)
いや・・逆にこの結婚話をどうにかするって言うのには有利かもしれない。
だって私なんてどうみても十人並みだし、家だってごく普通の一般家庭だ。
いくらうちの両親と仲がよくて、約束したとはいえ本気で,秋宮家の次期当主ともいえ
る自分の息子と結婚させるはずがない・・
(よし!いける!!)
心の中で密かにガッツポーズをとる。
「―・・失礼致します。」
雅代さんが戻ってきた。
雅代さんの後ろにはテレビで見た本物の秋宮雅人がいた。
40を過ぎているというがまだまだ30代でも通るぐらいの容姿だ。
若い頃はさぞもてたことだろう・・テレビで見るよりも優れてみえる容姿は多少皺が
入っているもののそれも独特の味を出している。
身体も鍛えているのだろう・・ほどよくしまっていて背が高く、背筋がピンとしている。
こないだ友達が行っていた"ダンディなおじ様v"というのはこういう人のことのことを
いうのだろうなぁ・・・と実感した。
その人は私を視界に入れるとにっこりと笑みをたたえこちらに近づいてきた。
「今日は、灯ちゃん。大きくなったね。」
そのにこやかな笑みに思わず見惚れてしまっていたが(しっかりしろ!自分!!)私は
慌てて立ち上がり、差し出された手を握り返した。
「どっどうも初めまして―・・」
と、私の挨拶に雅人は首をひねった。
「あれ?灯ちゃん,俺のこと覚えてない?」
「え?」
何とも親しげに話しかけられポカンとしてしまった。
ポンと雅人さんの手が肩に置かれた。
「ん〜まぁ灯ちゃん小さかったからなぁ・・覚えてないのも当然かぁ・・」
「えっ?あの・・」
何のことかわからない灯は口ごもるが、雅人は先手を打って
「あっ俺のことは昔みたいに"雅人おじさま"でいいからね。」
といった。
「はっはい・・」
ヤバイ・・完全に向こうのペースだ・・
「いやぁそれにしても本当に大きくなったね。由佳さんにそっくりだ。目元は郁そのまま
だね。うんうん。俺の想像以上にいい子に育ったみたいだね。これならいつでも息子達
のお嫁さんになれるね。」
話が例の件に移ったところで灯は当初の目的を思い出す。
「あっあのその話なんですけど―・・って・・え?」
ちょっとまて。
今なんていった・・・・・・・・・?
「あの・・・多分聞きまちがいだと思うんですけど・・・」
聞き間違い出会って欲しい。
お願いだからこれ以上問題を増やさないで下さい・・・・・・・・
「息子"達"・・・・・・・って・・・・・?」
「ほら俺の所、三人とも男だからさぁ。灯ちゃんみたいに可愛い子が娘になってくれ
るかと思うともう本当に嬉しくって〜・・」
嬉しそうに語る雅人はテレビでみるよりも何だか"若かった"。勿論内面がだ。
インタビューを受けているときのあの硬派で真面目な"出来る素敵な男性"というイメ
ージが今の雅人からは受け取れない。
あのテレビに映っていた人と目の前にいる人が同一人物だということがまるで嘘のよ
うだ。
「あっあの・・雅人・・おじさま?」
「ん?なんだい?」
「三人・・・・・・・・・・・・いらっしゃるんですか?息子さん・・・・・・・」
あぁ神様・・なんか厄介ごとが増えてる気がするんですけど・・
「うん、そうだよ。結婚してもらうのはそのうちの一人だけなんだけどね。三人とも灯ち
ゃんの婚約者ってことになるから。」
ちょっとまてちょっとまてちょっとまて・・・
三人もいるという事実に混乱していた頭を正常に戻す。
「あのっ!申し訳ないんですけど私結婚する気は―・・」
「紹介するよ。―・・三人とも入っておいで!!」
あぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・お願いだから話を聞いてくださいおじ様・・
新たに応接間に三人の男の人が入ってきた。
うっ・・なんだこの美形集団は・・・・・・・・・・
完全にこの父親の遺伝子を受け継いでいるなとみられる息子達だ。
「右から長男の司(ツカサ)、次男の晶(ショウ)、三男の密(ヒソカ)。」
紹介された三人はペコリと頭を軽く下げた。
司さんが三人の中で一番背が高い。20代前半だろうか・・黒髪はオールバックにまと
めてグレーのスーツを着こなしている。
キリリとした眼差しが雅人おじ様の仕事をしているときの顔にそっくりだ。
次男の晶さんは茶髪の少し長い髪をさらりと肩に流している。
司さんよりは雰囲気は柔らかく感じられる。服もぴっしりとしたスーツではなく水色の
シャツを軽く着こなしている。
だがそれでもちゃらちゃらしているといった感じではなくそういう格好のほうが彼には
似合っている。
三男の密さんは三人の中でも一番背が低いがそれでも175以上は軽くあるだろう。
髪も黒く眼鏡をかけていてとても真面目そうだ。
私と同じ学生だろうか?
だとしたら学校でもさぞかしもてるのだろうなぁ・・などと思ってしまった。
三人の視線が一斉に自分に集まっている。
うっ・・・・・・・
何か居心地悪いなぁ・・
「この中で一番年齢が近いのは密かな?灯ちゃんより一個上だから・・」
雅人が尚も説明を続けている。
あぅ・・美形四人がこっちみて微笑んでるよ・・
(あ〜!!気圧されるな私!!負けるな私!!頑張れ私!!)
めげそうになる自分を叱咤して灯は目前の敵に立ち向おうとする・・・が・・
「あっあの―・・」
「さて、じゃあ灯ちゃんも来たことだしご飯でも食べようか。」
「えっ?あのちょっ―・・」
「灯ちゃんも今日からここを自分の家だと思って自由に使ってくれていいからね。わか
らないことがあったら雅代さんや息子達に遠慮無しに聞いてくれて構わないから。」
「おっ―・・おじ様―・・!?」
聞く耳持たず。
ぐいぐいと背中を押されていく。
あ〜!!なんてことなの!!
(私―・・一体このままどうなっちゃうのよ〜!!)
*
結局その日はそのまま流されに流され―・・ちゃっかりとおいしいご飯を頂き、そして
ふかふかのベットまでご用意してもらってしまった・・
(明日よ!!明日こそは!!)
明後日の月曜からはまた学校が始めるのだ。
何としてでも明日中に説得して寮に戻らなければ・・まだやらなければならない宿題も
あるのだ・・
体調を万全にしておこうと布団を大きく被って眠りに落ちた。
だが一日の間にいろんなことが起こりすぎて疲れていた灯にはその部屋の内装をよく
みていなかった・・
よくみれば気付いただろう・・
見覚えのある服や、ぬいぐるみ、片隅に置かれた勉強机には愛用しているペンが置か
れていることに・・
はてさて彼女の運命はいかに・・・?
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