こんなのってあり?3。

生徒会の仕事もやっと終わりを迎え、校舎を出る頃にはあたりはすっかり夕闇に染まって
いた。

人影も無く、茜色にかわった校庭内を校門へと向かって歩いていく・・と。


「あれは・・・」


校門の所に立つ人影を見つける。

見間違えるはずも無い。
眼鏡などを付けてはいるが実は"受け"をよくするためだけのもので、両目共に視力は2.0
ある。

それにあの人は自分にとってとても特別な人なのだから、例え10km先にいたとしてもみつ
ける事が出来るだろう。


「―・・灯さん」


随分と長いこと立っていたのだろう。
門に寄りかかりぼぉっとしていた彼女は、自分が名前を呼ぶとはっとしたように顔を上げこち
らの顔を視界に入れた。


「灯さん、どうかしたんですか?」


なるべく不自然にならないように、いつも通りの笑みを作る。

すると彼女は何処か憮然とした・・いや、違う。何処か照れくさそうな顔でこういってきた。


「ちょっといい?二人だけで話たいんだけど・・」

「えぇ、構いませんよ。少し待ってていただけますか?今、早田さんに―・・」

「早田さんにはもういってあるから大丈夫よ。」


先をせかすようなその仕草はとても愛らしく思わずこのまま押し倒―・・といけないいけない。
そのまま続けていれば思考が危うく行動に出るところだった。
顔が少しばかり緩みそうになるのをおさえながら「そうですか。」と冷静に受け答えする。


「では、温室のほうにでも―・・」


いきましょうか。と言葉を続け身体の方向を変えた時、ふと、灯の後ろ髪を飾るモノに目が止ま
った。
それを見て一瞬驚きはしたものの、すぐに胸に熱い―・・暖かい思いがわきあがってきた。

そこには可愛らしく蝶々結びにされた一本の白いリボン。

だがよくみるとそれは真っ白ではなく、元の色から大分色落ちしたものだということがわかる。


見忘れるはずが無い。
だってそれは―・・




(あの日俺が渡したものだから)











                           *










飛行機の音がする。


『―・・密、灯ちゃん、おいで。』


お父さんが車から中々降りようとしないボクたちを促した。


『やだぁ!!』

『やぁの!!』


ボクと灯ちゃんは二人して車から出るのを拒んだが大人の力にかなうはずも無い。
無理矢理おろされてしまった。


・・・・・・それでもボクは灯ちゃんの手を離さなかったけど。


人が沢山行き来している。
沢山の声がする。音がする。

あっあれって最近習い始めた"英語"だ!
そう思って隣にいた灯ちゃんに”あれって英語だよ”って教えてあげるときょとんとされてしまった。

う〜ん・・まだ灯ちゃんは英語はならってないのかなぁ?

それに"空港”は始めてみたいだし・・よし!ボクが教えてあげるよ!!

灯ちゃんの手を引きながらボクが説明してあげると灯ちゃんはとても嬉しそうに笑ってくれた。

でも楽しい時間もあっというまに終わっちゃって・・とうとうお別れの時間がきちゃった。
すると車の中のときみたいに灯ちゃんは泣き出しちゃって・・・


『やぁの!!ひーくんとおわかれやぁの!!』


うん、ボクも嫌だな。
灯ちゃんと離れるのはすっごく嫌だ。
それに灯ちゃんが泣いちゃうのも嫌だなぁ・・・


『そうだ!灯ちゃん、コレあげる』


ボクは鞄の中から二本の青いリボンを取り出した。

それはボクのお誕生日のときに、お母さんにもらったプレゼントについていたもので・・ボクの
大好きなお空みたいに綺麗な色だったから大事にしまってあったんだ。


『はい、一本は灯ちゃんにあげるね。―・・ほらおそろいだよ。』


ボクは灯ちゃんの右手首にリボンを巻いてあげる。
そしてボクもそれを左手首に・・


『・・・おそろい?』


泣き腫らした目で灯ちゃんが首をかしげる。

かわいいなぁ・・・


『そう、おそろい!』

『ひーくんとおそろい?』

『そうだよ!』


すると灯ちゃんは嬉しそうに「おそろい、おそろい!!」といってくれた。


『ボクがもうちょっと大きくなったら絶対にまた帰ってくるからね。絶対に灯ちゃんを迎えに来
るから!だからその時は―・・』