こんなのってあり?1。

「灯さん、次は何処に行きたいですか?」

注文した紅茶を片手に目の前に座る密がにこにことしながらそう聞いてくる。

―・・家から連れ出されて数時間・・いろんな所へつれていかれて結局楽しんでしまって
いる自分がいる。

現に今だって歩きつかれて入った喫茶店にてビックパフェを堪能してしまっている・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・完全に密のペースに流されてしまっている。

「まだ何か欲しいものはありませんか?」

ぶんぶんと首を横に振った。

(あれだけ買っておいてまだ何かかうっていうの!?)

チラリと店の前に停まっている車を見る。
あの中にどれだけの荷物がしまわれていることやら・・・

別に”欲しい”。といったわけじゃないのだ・・
買うつもりもなかったし買ってもらうつもりもなかった。
ただのウィンドウショッピングのつもりだった・・・・・・・・・ハズだったんだけど。


"あっこれかわいい〜"
"本当ですね。灯さんに良く似合いそうです。―・・すいませんこれ下さい"
"えっ!?あっちょっと密!いいってば!!"
"そういえばあっちのも可愛いっていってましたよね。あぁ・・あれも灯さんに似合いそうだ
なぁ・・じゃあれと・・あっちのも下さい。"


数時間前のの会話を思い出してぶるっと身震いする。

・・・・・・・値段なんてみやしない。
今日だけでどれだけ買ったと思っているのか。
根っからの庶民派の灯と金持ち密の価値観は根本から違うのだろう。

だからこそタチが悪い。

(考えただけで胃が痛くなりそうよ・・・)


「なら何処か別の場所へ行きましょうか。遊園地とか映画館とか・・」


ここで試しに”ブラジル"とかいってみたらどうだろうか・・?

―・・こいつなら笑顔で"じゃ行きましょうか"なんて答えそうで怖い・・


「灯さん?」

「ん?あ〜・・なんでもないの。あははははははは」

阿呆な考えをふるふると頭から放りだす。

「まぁでもそろそろ日も暮れるし・・・・・帰らない?」

「そうですね・・じゃあ最後にちょっといきたい所があるのでもう少しだけお付き合いしてい
ただけませんか?」

「?いいわよ。」



                          *



密が灯を連れていた場所は、灯にとってとても馴染みのある公園。

「ここ・・」

この公園を出て少し行けば灯の家はすぐそこだ。

後ろを振り返るとちょいちょいと密が手招きしていた。

「?」

いつの間にか密は公園の片隅にあるブランコに座っており、その横の開いているブランコ
を指差している。

なつかしいなぁといいながら灯もその横に腰掛けた。

「昔はよくここで遊んだなぁ・・」

「灯さん、よくあの木に登ってましたよね。」

「うんうん。で、お母さんに"女の子がそんなことしちゃいけません!”って物凄く怒られて
・・・・・・・・って何でしってんの!?」

内緒です。と密が意地が悪そうに笑った。

「僕は灯さんのことなら何でも知ってますよ。」

「・・・・・・・・・・・・・・密、それってストー」

「例えば灯さんが由佳おばさんの口紅をおっちゃって内緒で庭先に埋めたりとか、幼稚園
で同い年の意地悪な男の子に喧嘩うったりとか、お遊戯の時間についうっかり―・・」

「だぁぁぁぁぁ!!!!!!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!謝るからそれ
以上言わなくていいわよ!!」

力いっぱい謝り通した灯は大きく息を吸うと盛大にその息を吐き出し脱力した。

(まったく・・本当にわけわかんないわ・・)


しばらくブランコのキーコキーコというかすかな音だけが響く。


(うっ・・・・・・・きまずい。)

一旦話が途切れると上手く次が続かないものだ・・


空を見上げるとオレンジ色が一面に広がっている。


「ねぇ、灯さん」

静寂を破ったのは密。

「本当に"青いリボン"のこと・・・・・・・覚えてないんですか?」

こくりと頷く。

「僕との約束も?」

またこくりと頷く。

密があまりにも真剣な顔で―・・あまりにも切なそうな顔でそんなことを聞くものだから灯は
只頷くことしかできなかった。


青いリボンって何?約束って何?


聞かなきゃいけないんだろう。うん。聞きたい。

でも何だかそれは聞いちゃいけないような気がして―・・

「灯さん」

再度呼ばれ顔を上げる。
いつの間にかブランコから降りた密が目の前に立っていた。

「一度―・・家に帰りましょうか」

「え?」

顔が。
密の顔が近づいてきて。

唇に触れる柔らかく暖かい感触。

「え・・・?」

夕日に照らされてあたりも赤く染まり・・

「密・・・・?」

そっと離れていく密の顔をただ呆然と見上げる。

もう一度その口が動いた。

―・・鳥越の家に帰りましょう。灯さん。











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