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「本っ当に最悪。なんで待ち合わせがあんな場所なのよ」

暁美は髪をクルクルと指でいじりながら隣を歩く流をにらみつけた。

「おかげで煙草のにおいが髪についちゃったじゃない」

「しょーがないデショ。文句があるなら京介さんにいってくれよなぁ」

流は肩をすくめて見せる。

「若い奴等のことは若い奴等に聞け。薬の事は捌いてる奴等に聞けってね。

普段遊んでるように見えるけどちゃぁんと情報源の確保はしてるのよ?俺」

「"見える"んじゃなくて実際そうでしょう。まったく・・・そういう所も昔と変わらな

いんだから」

「そうそう変わってたまりますかって―の―・・おっ!いたいた。お前ちょっとここ

でまってろよ」

そういうと流は道端でたむろしていた少年達の集団に走り寄っていった。

「まったく・・・また"待つ"のね」

暁美は溜息をつくと近くの壁に寄りかかる。

空を見上げるがそこに星は見えない。

昼間のような明るさを放つこの街にいては見えるものも見えやしないのだ。

"人"が街を駄目にしていく。

そして"街"が人を駄目にしていく。

まったくもって悪循環だ。

まるでループし続ける牢獄の様だと暁美は思った。

人は自ら無意識化の内で破滅を呼び込んでいる。

現に待ちの至る所、目を凝らせば"奴等"が潜んでいる。

小鬼が列を成して歩き、陰の気が漂う。

"人"がそれらを呼び込み、そして"それら"は更に"人"をいともたやすくあちら

側へとひきずりこむ。

あの頃と比べて人の作り出した闇は格段と成長を遂げていた。

自分達が命を賭してまで守るこの世界は脆く儚い。

多くの人間は信仰を失い、暁美達のいる"非現実的な世界"というものを知らな

い−・・知ろうとしない。

そしてそんな身勝手な人間達が知らず知らずの間に"倒すべきモノ"に力を与え

ている。

一見してみればグロテスクな街の様子を冷めた目で見ながら"本当にそんな人

間を守る価値があるのだろうか?"と自問自答してしまった自分に思わず苦笑する。

(別にどうだっていいわそんなこと・・)

そう・・どうだっていいのだ。

自分が本当に守っているのはこんな世界ではない。

守るべきものは―・・

「待たせたな」

流が戻ってきた。

「?どうかしたか?」

「いいえ、なんでもないわ」

この男は本当に妙な所で勘がいい。

何も考えていないように見えるが、時々まったく別人のように頭が切れるときが

ある。

(まっそういう所がいいんだけどね)

流は少しいぶかしんだ様子だったがすぐにまぁいいかといった顔になった。

「それで?何かわかったの?」

「あぁ例の薬な。丁度今夜捌かれるらしい。"イン"の売買は変わっててな。売人

が指定した場所と時間に買い手が集まって一度に一気に捌くんだとよ。―・・場所

もしっかりと聞いてきたぜ。詳しくは歩きながら話すけど―・・どうする?」

「勿論」

にっと、暁美は端正な顔を笑みに変えた。

だがその目は鋭く、"狩師"の瞳へと変化している。

「―・・今夜、やるわよ」

「了解。そうこなくちゃな」

パンッ―・・

暁美と流の手が合わさり小気味のいい音が打ち鳴らされた。

それは合図。

流の眼も細められ、瞳が鋭く光る"狩師"へと変わった。

「さぁて、んじゃ"鬼狩り"、始めさせて貰いましょうかね」

二人の鬼狩りが動きだす。

その背中は繁華街の雑踏の中へと消えていった。