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ネオンきらびやかな繁華街。
夜になっても人々の勢いは止まる事を知らない。
眠ることを知らない様な街の一角のにあるゲームセンター。
若者たちの溜まり場の一つでもあるその場所では今、一人の女子高生が複数の男共に
絡まれていた。
若者達は滅多に見ないほどの美人を前に興奮を隠せぬ様子で喋りかけている。
「その制服、"辰学"のだろう?いいねぇ〜美人が際立って見えるよね〜」
「なっ?いいだろう?どーせこの暇してるんでしょ?」
「ちょっとだけでいいからさぁー俺たちと遊ぼうよ〜」
「奢ってやるから。一人でこんな所にいるより俺たちといる方が絶対楽しいぜ!」
月並みな台詞でしつこく食い下がる男達に女の方は顔色一つ変えないままこう言い
放った。
「うざい。邪魔。とっと消えなさいクズ。」
よもやこんな美人から不機嫌かつ暴言が吐かれるとは思っても見なかったのだろう。
若者たちは一瞬キョトンとしたがその後、怒りもあらわに"キレた”。
「なっ・・・なんだとぉ!?」
「てめぇこっちが下手にでりゃお高くとまりやがって!調子のってんと痛い目みんぞ!」
だが女の方も負けてはいない。
男達の態度を一笑すると冷たい声で言い返した。
「だぁれがお高くとまってんのよ。私が何時あんた達にナンパしてくださいって頼んだ?
ねぇ?何時何時何分何秒?こっちは用事があってきてんのよ。じゃなきゃこんなクズし
か集まらないような場所にくるわけないでしょこのクズ。そのぐらい容量の小さい頭でも
理解してほしいわねクズ。あぁら、ごめんなさい?クズには理解しろっていうほうが無理
よねぇ」
「なっ・・!?」
女の剣幕に押され男達は口ごもる。
「はい邪魔邪魔。とっととうせなさいよ。いつまであんた達のその不細工な面さらしてる
つもりよ」
「テメェッー・・!!」
ついに男一人が拳を振り上げた。
女の方はそれに対し怯える事もなくその挙げられた拳をじっとみているだけだ。
ふりおろされる―・・
「まったく何やってんの」
だがその拳が届く前に、大きな手が軽々と受け止めた。
男だ。女と同じ辰学の制服を着ている。
「君もいくら相手がむかつくからって女の子相手にグーはないでしょグーは」
「何だてめぇ!?」
「遅いわよ、流」
女が突如介入してきた男―・・流の脛をげしっと蹴った。
「悪ぃ悪ぃ、暁美。後でなんか奢るから勘弁してv」
「当然よね。あんたが遅いせいでこんな馬鹿クズ男達に迷惑行為を強いられてたんだから」
自分達を無視して会話を続ける二人。
そして暁美の"馬鹿クズ男"発言に男達は顔を真っ赤に染め上げて再び殴りかかろうとした。
「ふぅ・・まったく。最近の若いもんってのはどうしてこうもキレやすいのかねぇ・・」
流は爺臭い台詞を呟きながら慌てる様子もなく男達の拳を軽々とよけるとその足をひっかける。
「「うわぁぁぁぁぁ!?」」
将棋倒しの如く男達は盛大に転倒していった。
「はいはい。暴力はいけませんよ暴力は。ね?幹君、仁志君、崇志君、昭雄君?」
流は倒れこんだ男達に向かって手に持っていたものをヒラヒラと見せびらかす。
それは男達の財布だった。
「なっ!?何時の間にっ!?」
「ふむふむ♪皆、大学生なんだねぇ・・あぁ〜ここの大学かぁ〜。あっそうだ田伏って知って
る?田伏 力。確かここだったはずなんだけど・・」
流が何気無しに呟いた名前に男達は仰天する。
「てめぇ田伏さん呼び捨てにするたぁいい度胸じゃねぇか!!」
「ん?いいのいいの。だって俺、田伏とはマブダチだから」
「「へ・・・?」」
流はにたりと人の悪い笑みを浮かべると倒れこむ男の一人に近づいた。
「田伏から聞いたことないかなぁ?俺のな・ま・え」
そのまま目の前にいた男の髪をガシリと掴むと恐ろしいほどの笑みでその顔を覗き込む。
「小島 流っていうのよ俺。あぁそれともこっちの名前の方が有名なのかなぁ?最近こっちの
ほうでも知名度UPしたからねぇ♪チーム"風隼人(カザハヤト)の流"ってしってる?あれ?皆、そん
なに汗流してどうしたのかなぁ?あっもしかしてやっぱ知ってたぁ?うんうん。やっぱ俺もだん
だんと有名人になってきてるなぁ〜vあ〜そうだそうだ。ついでに田伏に伝言頼むよ。”今度
一緒にドライブしようねぇv”ってのと・・」
その顔から笑みが消えた。
「"人の女に手ぇ出すような・・まして女に手上げる阿呆な真似を部下にやらせてんじゃねぇぞ。
子分の責任は親の責任。今度こんなことがあるようならタダじゃすまねぇぞ"―・・って、ちゃぁんと
伝えてくれよな?じゃな♪」
鷲掴みしていた髪の毛を放し笑顔に戻った流はヒラヒラと手を振り暁美と一緒にその場から去って
いく。
後に残されたのは放心状態の男達。硬直したまま動くこともままならない。
やばい人物に関わってしまった・・もう頭の中は後悔の念で一杯一杯だ。
小島 流。
あぁ・・どうして気付かなかったのか。
茶髪に、彼のトレードマークとも言える特徴のある右耳の三つのピアス。
よくよく冷静に見ていれば気付いたではないか?
チーム"風隼人"
今やその規模は関東一とも言え、風隼人の参加に入るチームも多い。
男達が所属している田伏がひきいるチームもその傘下に入っているのだ。そしてそれほどまでに
強く大きなチームを取り仕切るリーダー―・・それが"流"。
「こ・・・・・・・殺されるかと・・・・思った・・・・・」
誰が呟いたのか。
人生で一番最悪な瞬間というものをたったいま経験した男達であった。
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