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―・・光が。

突如、白い光が視界を焼き尽くした。

「!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

もはや音にすらなっていない。声にならない叫びが口から吐き出される。

「刹那様!!!」

暁美と透の二人と対峙していた右近は、主の異変に目を見開き声を張り上げた。

「くっ・・何という・・っ―・・左近来い!!」

「了解っ!!」

右近に"左近"と呼ばれた鬼が新たに両者の間に割って入る。

右近は主の下へと駆け参じるとよろめくその体を支えた。

「くぅっ・・・・」

「刹那様!!」

身体のいたるところから白い煙がしゅーしゅーと音をたてて吹き出している。

まるで火傷をおったかのようにその半身は爛れ腐った肉が焼けるような匂いがした。

(―・・何という失態っ!!いまだ覚醒せずと侮っていたか)

刹那は身体を九の字に折り曲げながら唯一無傷の左目で壁際に座り込む少女を睨みつけた。

あのような華奢な身体のうちにこれほどの力を隠し持っていようとは・・

(神魔の力・・・・くっ・・やはり侮れんな・・)

思ったよりも深手かもしれない。力を大分そがれてしまった。

(ふっ・・・ここで終いか・・・?)





                           *





突如白い光が氷雪の将を包み込んだ。

(この力は・・・・っ)

それが麗利の放った力だと瞬時にして判断した暁美達はそのまま攻撃の手を緩めることなく

一気に攻め込んだ。

形勢逆転。

氷雪の将の側近である右近も一時下がり、間には左近とよばれた鬼と雑鬼が数鬼・・

「流!そっちはあんたにまかせたわよ!!」

「おぅ―・・!!」

「いかせるかよっ!!」

氷雪の将の元へと飛び出す流の前に左近が立ちはだかろうとする。

「あんたの相手は私たちよ!!―・・透、援護を!」

「はっ―・・」

左近の懐へと朧月を用いて斬り込んでいく。

「くそぉぉぉ!!人間風情が!よくも刹那様を!!」

左近と呼ばれた鬼もも負けじと反撃してくるが・・・

(あっちの右近に比べたらまだまだ―・・ねっ)

「はぁぁぁ!!!!」

しゅっと紺地の布が風を切った。

それは鋭利な刃物のように閃くとそのまま―・・左近の右腕を根元から切り離した。

「―・・っ!?」

その顔が驚愕に染められる。

「まだまだ。青いわね、ぼうや?」

朧月をその身に絡ませながらふふっと暁美は不敵に笑った。






                           *






「はぁっ!!!!」

風月の剣先がうずくまる刹那の頭上に振りかざされる。

だがその前に右近が立ち入った。

「ぬっ―・・!?」

その左目に赤い筋が深く縦に一本刻まれた。

「兄者!?」

片腕を切り落とされてしまった左近はその傷口を抑えながらも叫ぶ。

「くっ・・・いい太刀筋じゃねぇか隼人の―・・」

「けっお褒めに預かり光栄だよ―・・っていいたいとこだが野郎にほめられても嬉しくもないな」

ちゃっと風月を構えなおす。

(ちっ・・こりゃちとまずいな・・・)

右近の顔に汗が流れる。

チラリと後方に視線をやるがまだ主は回復しきれていない。

どうやら神魔の力は主の力までそいでしまったようだ。

(しかも残ったのは俺と左近だけときた・・か。・・・・ふむ)

『―・・右近』

主の声が頭に直接響く。

『目的は果たせられた』

『しかし我が君―・・』

くくっと苦笑する声が生身で聞こえる。

『だがここで只やられるのも我が性にあわぬ・・少しでも数を減らせれば上々』

『・・・・・承知』

「―・・左近、来い!!」

兄に呼ばれた左近はすぐに右近の横へと跳び移る。

その右腕の付け根からは変わらず血が吹き出したままだったが・・

「いけるか?」

「まだまだっ」

弟の返事にすっと右近が構えなおした。

「・・・・・・抵抗しない方が楽だと思うんだけどなぁ」

流はそういいながら苦笑した。

右近もそれに苦笑で応える。

「あいにくとそういうわけにはいかんのでな」

両者の間に緊迫した空気が流れた。

「そうか・・・じゃこっちもそろそろ終わらさせてもらうぜ―・・」

流が身を低くしその場を蹴り跳ぼうとした―・・その時。

パンッ―・・

「―・・!?」

流の足元に銃弾が撃ち込まれたのだ。

(何だ?一体何処から―・・!?)

まだ他に伏兵がいたのかとばっと周囲に目を走らせ、すぐにそれを捕らえる。

反対側の出入り口に男がいた。

その片手には黒い拳銃が握られている。

「お取り込み中のところ悪いんだが―・・」

ふぅ・・・と何処かめんどくさそうにもう片方の手で口にくわえていた煙草をとると大きく煙を吐き

出した。

この緊迫した異様な空気の中を臆することなく男は歩いてくる。

「―・・連れ帰させてもらうぞ」

「あなた―・・人間・・・?」

後ろで暁美が驚愕の声を上げる。

そう・・その男は何処からどうみても只の人間だった。

「僚!?お前どうしてここにっ!?」

鬼達もその人間の突然の登場に驚きを隠せないようだ。

右近に"僚”と呼ばれたその男は銃口を流たちにむけたまますたすたと傷ついた三鬼へと近

づいていった。

「別に・・」

足で煙草を消すと男はそのまま―・・あろうことか氷雪の将を担ぎ上げた。

「―・・貴・・様・・・一体何のつもりだ?」

「五月蝿い。ちょとだまってろ―・・おい右近」

「おっおう」

「外に車が用意してある。そこまでなら飛べるか?」

「おっ―・・おい!!あんたちょっとまて!!一体何者だ!?」

突然の闖入者に状況が今一理解できないのは何も鬼達だけではない。

(鬼狩の最中にこんなハプニング・・珍事件中の珍事件だぜ・・)

流の問いに男は気だるげに髪をかきあげた。

「別に・・・・応える義理もないな・・悪いが俺は物凄く眠いんだ。これで失礼するよ」

「ちょっ―・・!?まてって―・・うぉぉっ!!???」

流の足元に容赦なく銃弾が撃ち込まれた。

「見逃せっていってんだろ・・・ちっとは言うこと聞け餓鬼が、次は当てるぞ」

「なっ―・・」

ばっと風月を構えた流に男がすっと目を細めた。

「止めるなら別に構いやしないがな・・だがな」

「流!!やめなさい!!」

「―・・こいつらは殺せても、お前らに"人間"が殺せるか?」

「!?」

ピタッと流の動きが止まった。

その様子を見て男はふぁ・・とこの場にそぐわぬ欠伸をすると右近に声をかける。

「まだまだ・・・・青いな。右近、いくぞ」

「あぁ」

しゅっと一人と三鬼の姿がそこから掻き消えた。

後に残ったのは立ち尽くす三人と、力を使い果たして昏々と眠る麗利達だけだった。