<11>
「ふっ・・」
刹那の嘲笑が鋭い切っ先と共に風を切った。
「くっそ・・!」
流の風月が何度も何度も打ち込まれるがそれもたやすく防がれてしまう。
くく・・と刹那が笑った。
「どうした、隼人?貴様の力、この程度のものだったか?」
「ごちゃごちゃうっせえよ!!」
ブン―・・と空を切る音。
それに続いて刹那の服の裾が切られる。
刹那は流から距離を置くように後ろへと跳んだ。
「ふんっ・・・つまらぬ、つまらぬなぁ隼人。我が期待を裏切る気か?」
「けっ氷雪の、昔より饒舌になってんじゃないの。あんま油断してっと痛い目みるぜ?」
「はっ口だけは相変わらず達者だな。さて―・・」
「っ!?」
走った悪寒に風月を構え右をむけばその刃に刹那の鋭い爪が受け止められていた。
「ほぉ、感は衰えてないか。上々、だがな―・・」
再び刹那の姿がかき消えた。
僅かに風が起こり続けて背後に現れる気配。
「―・・我が俊足にはまだついてこれまいて?」
「がっ―・・」
爪が背中を抉った。
流はそのまま前のめりに倒れ、床を転がっていく。
「ってぇぇぇ・・・・」
あと一瞬、気配に気づくのが遅ければ内蔵まで達していただろうが残念ながら傷は浅いとは
いえない。背中から血がとめどなく溢れ制服を真っ赤に染めていく。
起き上がろうとするが背中に激痛が走り腕に上手く力が入らない。
(やべぇ・・これはちょっとまじでやばいかもよぉ・・・?)
ビチャッ―・・と広がる血溜りに小さな足が浸る。
「興醒めだよ、隼人。あぁまったくもって興醒めだ。そろそろ終わりにしよう、我もそう暇ではない
のだ」
刹那の爪が更に鋭く伸ばされた。
「さらばだ」
きらりと光る異形の爪を睨みつける。
(こんなところでっ)
「〜〜〜・・やられてたまるかよぉぉぉ!!」
最後の力をふりしぼって風月を振り上げる。
「ふっ・・・無駄なあがきを」
刹那の爪と風月がぶつかり合うその瞬間。
バチィィィィィィッ―・・
「何っ!?」
刹那の爪が激しい光と音によって阻まれた。
「何だ・・・これ・・?」
流も突然自分の目の前に現れた不思議な"壁"に驚きを隠せない。
(あたたかい・・・この力・・・これは・・・)
パンッパンッパンッ―・・
銃声が響いた。
「くっ」
刹那がその場から飛びのいた。
「流様!!」
「透っ!?」
思わぬ闖入者に流は目を見開く。
「何でお前がここに・・・」
「流!!」
暁美が流に走りよってきた。
彼女も多少傷を作ってはいたが流ほどの重症ではないだろう。
突然現れた透の姿に暁美も驚いてはいたがそれどころではないというように流を抱き起こした。
「ちょっ・・・あんた大丈夫なの!?」
「まぁなんとか・・・っていててててて!!!」
「お二人ともそのままあちらの―・・麗利さんがいらっしゃる所まで下がってください。態勢を立て
直します!」
「えぇ!?」
「ちょっと!!麗利ちゃんって!?」
驚愕の声を上げながら二人は透に言われたとおり後ろへと下がった。
二人の退路を確保するように透は銃と刀を酷使して三人の盾となる。
「暁美さん!小島先輩!!」
非常階段の扉の前。ここにいるはずがない麗利の姿がそこにあった。
「麗利ちゃん!?どうしてここに・・・」
「ごめんなさい暁美さん・・物凄く嫌な予感がして・・ごめんなさい」
「まったく・・」
項垂れる麗利に暁美は怒る気もうせてしまった。
「いいわ・・貴女が無事なら。・・・とそんなこと言ってる場合でもなかったわね今は」
肩に寄りかかっていた流をゆっくりとおろすと暁美は朧月を構えなおす。
「暁美・・俺も・・」
「馬鹿。そこでじっとしていなさいよ。麗利ちゃんや透がきたならすぐ他の皆もくるわ。それ
までの時間稼ぎぐらいなら私でも出来るからそこでおとなしくしてて」
「だけどっ―・・いってぇぇぇぇ!!」
「麗利ちゃん、その馬鹿押さえつけといて」
「はっはい!」
暁美に蹴られ悶絶する流の身体を支えながらその背中の傷に麗利は顔をしかめる。
(何とかしなきゃ・・血が出すぎてる・・・)
―・・手を当てて・・
「先輩・・」
「ん?」
「ちょっと痛いけど我慢してください」
「えっ?―・・っっっ!!」
その傷口に掌を当てる。
「痛い!!麗利ちゃん痛いってば!!ひりひりすー・・・・・・・しない?」
むしろ暖かい。
そう先程のあの壁と同じ暖かさだ。
「・・・・・・麗利ちゃん?」
「―・・やっ・・・・やったぁ・・・・出来たぁ・・・」
脱力したような声が聞こえてきた。
ふと首をめぐらせれば背中から絶えることなく流れ続けていた出血が止まっている。
麗利がその力を行使して傷を癒したのだ。
「おぉ〜!!麗利ちゃんすげぇっ!!―・・よっしゃ!!」
むくっと立ち上がる。
「―・・倍返しだ!!氷雪の!!」
飛び出す流。
ふぅ・・と麗利は肩を落とす。
今日は力を使いすぎているのかもしれない。
(でも・・・)
顔を上げると目の前では沢山の火花が散っていた。
透も加わって、先程よりも闘いやすいようには見えるがそれでも五分といったところだろうか。
(滝先輩たちがまにあってくれればいいのだけれども・・・)
しかしもし間に合わなければ再び苦しい戦いになっていくだろう。
現に三人共に疲れが見え始めている。
(ただ待つだけじゃ駄目よ。今の私に出来ることを―・・)
―・・最後までやり遂げるのです
「―・・私だって!!」
―・・私たちは守られるだけではない
「出来る!!」
最後の一搾りの力を麗利は練りだした。
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