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8.




「何たることかっ-・・!?」

貴叉の怒れる気迫と声に控えていた冬木はピクリと肩をすくませる。

「lこの妾(わらわ)がっ・・!?夢幻の将であるこの妾があのような人間の老いぼれに気圧される

などっ・・!何たる屈辱!!妖王様に呪われた身でありながら妾にたてつこうなどとっ!!!」

部屋に置かれていた花瓶やグラスが気に当てられ次々に割れていく。

その気は部屋をも揺るがし、ついには貴叉自身の結界が張られている窓ガラスにもピシリと亀裂

が走ったのであった。

その様子を見て冬木も恐る恐る口を開いた。

「―・・貴叉様。我が麗しの御君よ。どうかお怒りをお静めください・・結界が・・」

「・・・・・・・。」

しかしそれでも貴叉の気は静まらない。

と、その時。

「駄目ですよ、冬木さん。琥珀曰くこの"年中ヒステリックなお姉さん”はそんな言葉じゃ静まりませんよ。」

「虚空の将様っ!?」

空間を裂き現れた霧人に貴叉は怒りの一瞥をくれてやる。

「何をしに来た霧人っ!」

「おや、恐い。そんなんだから"ヒステリック”なんていわれてしまうんですよ貴叉殿」

"恐い”などというそぶりは微塵も見せずにからかうような口調で霧人は言い放った。

「”そんなこと”でいつまでも怒っていてもしょうがないでしょう。次の手を考えたら如何です?まぁ

貴叉殿ならそんなことは百も承知でしょうが・・・・・」

霧人の挑発するような言葉に貴叉は―・・うってかわって怒りもせず、逆にすっと冷静になった。

「―・・あなたに言われるまでもないわ」

貴叉の気が静まり、発散していた気が彼女に集まっていった。

赤い豪奢なソファに掛け直すと足を高く組み貴叉は冷たく言い放った。

「それで?何のよう?」

霧人は笑みを崩さずにある”情報”を一つ話し始めた。

それを聞き終わると貴叉は怪訝そうに首をかしげた。

「・・・・・・それは本当?」

「嘘をつく理由などないでしょう?それでは私はこれで」

霧人は言うことだけいってしまうとまた空間を裂きその場から消えていった。

「貴叉様・・」

「あいつ・・・一体何を考えているのかしらね」

眉を顰め考え込む貴叉だったがすぐにそれを崩す。

「まぁいいわ。あいつが何を考えようが関係ないもの。害をなすようなら殺す。それだけよ」

貴叉は指を鳴らすと、部下に命じて集めさせた女達をディナーにワイングラスを傾け、眼下に広

がる夜の都市光を見つめるのだった。












一族一行は場所を移し変え、ここ辰波学園へとやってきた。

さて、その北舎の最上階に理事長室はある。

その広い、意外にも見た目は殺風景だが細かいところまで高級感あふれる調度が溢れる部屋

中にいるのは七鬼狩の面々と館様、そしてそのお付きが一人。

他の六人が見守る中、麗利は館様と向かい合い、お付きの男は黙々となにやら準備をしている。

「―・・御館様。全て整いました」

「ご苦労様でいした透。さて、それでははじめましょうか」

館様は京介に目配せする。

京介はそれに応えると館様の後ろに立った。

「皆も力を貸してくれ」

京介の呼びかけに五人も二人を囲むように並び立った。

「麗利、目を閉じなさい」

館様はそう指示すると閉じられた麗利のまぶたに指をあて静かに言葉を呟いた。

「今からあなたに"呪”を施します。あなたが完全に全てをとりもどすまで、"力”を制御するための

”呪”です。体の力をぬいて楽になさい。すぐに済みます」

「はい」

閉ざされた部屋の中に濃厚な匂いがかおりたつ。

深い海の匂い。

朝のむせ返るような木々の匂い。

部屋の中の気の密度が増す。

輪からはずれ部屋の隅に控える透はその気に立ちくらみを覚える。

館様が印を組み朗々と"詩”を口ずさんでいく。

それをサポートする六人の額にも脂汗が浮かんでいく。

「―・・
春風は海と共に吹きずさみ、秋風は山と共に吹き去りゆく

館様の髪が舞い、麗利に濃密な気の塊が集まっていく。

気が力を帯び、ついにはそれは青い澄んだ色となって現れた。

生者は陽、死者は陰。混沌たる世の理をもちて私はここに飛散する気に命じ数多の神々に乞い

願ふ。」


気が渦巻き、更に部屋に独特の匂いが増していく。

時量りの神の力をもちてこの娘より現れ出でる神魔の力を御す。出だせられませい神鏡よ。この

力、御身に映し出せ。


二人の間にふと風が起こり、その風の中から小さな銅鏡が現れた。

それはくるくると回転した後、麗利をピタととらえ、映し出した。

すると麗利を中心に渦巻いていた濃密な青い気がその平らな鏡面に吸い込まれ、ついには部屋

の中を支配していた濃厚な匂いも消え、辺りはシンと静まり返った。

目をぱしぱしと瞬く麗利に館様は優しく微笑む。

「終わりました・・」

その体がふらっと後ろに倒れかけたのを京介が支える。

「―・・館様っ」

「大丈夫です。少し・・力を使ってしまっただけですから。私も若くはないですからね・・・ふふっ・・・

あちこち弱ってきているのでしょう・・・・・透」

「はい、御館様」

「彼女の側に付いていてください。―・・皆もご苦労様でした。別室にて休みなさい。今は彼女の側

にはいないほうがいいでしょう」

六人は付かれきった表情でそれに頷くと館様に従い部屋を出て行く。

只一人、滝だけは心配そうに麗利を振り返った。

麗利が”大丈夫です”と頷き、うながすように目線を動かすと滝は微笑して部屋を後にした。

「・・・御苦労様でございました、麗利様。どこかお体の調子が悪いところはございませんか?」

透と呼ばれていた青年に声をかけられはっとした麗利は慌てて立ち上がろうとする。

「いえ、どこも―・・きゃっ!?」

腰を浮かし足に力を入れたが立てずに尻もちをついてしまった。

「あっ・・あれ?」

「大丈夫ですか?」

透は麗利を助け起こし椅子に座らせる。

「すいません。何か腰ぬけちゃったみたいで・・」

「あれほどの"呪”を受けられたのです。腰が抜けるのも当然でございましょう。」

透はそういうと床におちた先程の鏡を麗利に手渡した。

「これは・・・?」

「それは麗利様が鈴鬼那様でおられました頃に使われていたといわれております神鏡でございます。」

「シンキョウ・・・?」

「はい。”神秘なる神の力を放つ鏡”です。鈴鬼那様だけが扱えたお道具と言い伝えられております。

今回は御館様が麗利様のお力を制御すべくそれを用いましたようで。この中に麗利様のお力を封じ込め

たのでございます」

「この中に・・・?」

「はい。外敵から身を守る際にはそれを相手に向け強く念じれば良いそうで。必要とされる時。その神鏡は

麗利様の武器となりましょう」

「成程・・・」

神鏡を見つめ頷く麗利に透はお茶を入れる。

「お飲みになってください。落ち着かれます」

「あっ・・・ありがとうございます。すいません・・わざわざ」

「私になど礼を言う必要はございません。当然のことですから」

その言葉に麗利は僅かに困った顔をした。