10.



「透、どうかしましたか?」

翌日。

里への帰り道、高速道路を走る車の中で館様は窓の外を眺めていた透に声を掛ける。

透ははっと我に返ると頭を下げ、いえ何も・・・と応える。

「・・・・どうでしたか?あの子とあってみて―・・彼女と何か話しましたか?」

見透かしたような館様の口ぶりに透は一呼吸おくと、自分のことには触れずにかいつまんで

話した。

「そうですか・・・そんなことを・・」

「―私は、あの方が弱いとは思いません。むしろ強い方だと感じました」

強い口調でそういった透に館様はクスリと含み笑いをする。

「―・・えぇ、そうですね」

窓の外に流れるビル群を見つめる。

「あの子は強い。そして花のように可憐で儚い・・」

「・・・おこがましいことですが私に少しでも力があれば、あの方の手助けがしたかった・・真に

口惜しいことでございます」

拳が膝の上で白くなるほど握りしめ前を見据える透に館様は満足げに頷いた。

「あなたがそんなに感情をあらわにするのは珍しいことですね。いい傾向です。でもそんなに

自分を責めないでも大丈夫ですよ、透。あなたは充分あの子の役に立ちました。力などなくな

くともあの子の胸のうちを晴らしたのです」

「・・・・・・・はい」

そこから車内は再び静かになった。

館様は静かに目を閉じると記憶の海へと深く深く潜っていった。

目裏に古き記憶が蘇る。




―・・桂兄(あに)様ぁ

幼い頃の鈴鬼那。

―・・兄様

少女から女性へと成長していく妹。

―・・いって参ります。兄様。

―・・もうこれ以上・・誰かが死ぬのは嫌なのですっ!!!



やがて他の七鬼狩りの―・・同志たちの声もよみがえってくる。



―・・あれは仕方がなかった・・

―・・そうじゃないっ・・・そうじゃないんですっ・・・

―・・よっ館様!なんでぇ相変わらずしけた面してんですねぇ。

―・・いつかこの戦が終わったら・・二人で暮らそうかと思ってるんです・・あいつには内緒で

   すからね?

―・・私が行こう。

そして・・

―・・あの方は私が守ってみせます!!彼女を死なせはしない!!必ず生きて戻ります!!

終わらせなければならない。

もう二度と彼等が犠牲になることだけは避けなくては・・

絶対に終わらせなければ・・・

(どうか彼等に今度こそ安寧が訪れますよう・・・)

と、その時。車体が大きく傾いた。

「―・・!?」

「御館様!!」

透は席を立ち、館様を覆い隠すように抱きしめた。

激しい音と衝撃が続き、そして突然にシン―・・と静まり返った。

土煙がまって視界が悪い。

「―・・っ・・お・・た様・・ご無事ですか・・・・?」

「えぇ。・・・・・私は大丈夫です・・」

天井と床が真逆になった車内から二人這いずりでる。

他の一族の車も同じような目にあいゾロゾロと人が出てくる。

他の車の気配はしない。

「・・・・結界の中ですか・・」

「はい、大正解」

煙の中から男の声がする。

透は館様の前に立ち、車内からそっと愛用の日本刀を取り出した。

「何者です?」

館様が誰何(すいか)すると苦笑する声が聴こえてきた。

「いやはや失礼。煙が邪魔なようで」

黒い気が立ち広がり声の主を中心に拡散し煙が一気に晴れた。

赤いスーツを着た背の高い派手な男がいた。

両脇には女性が二人立っている。

「俺は四天王が一人、炎華の将・琥珀。やぁ鬼狩りの"御館様”、久しぶりだなぁ」

「相変わらず器の趣味は変わらないようで炎華の将」

館様は臆することなく落ち着き払って琥珀と対峙する。

「何用です?」

「しかし、皮肉なことをなさるな我が王は・・」

琥珀は館様の問いには答えずに一人呟いた。

「"鬼狩は鬼狩に還る”・・か。灯台下暗しとはまさにこのことだな」

「何のことです?」

「あんたもあんたで大変だったよなぁ?我が王の呪を受けて老いることも死ぬこともできない

生きる屍同然になっちまって・・」

琥珀は不敵に笑うと右手を胸の前に掲げる。

「―・・安心しな。すぐに解放してやる」

銃の発砲音が次々と響いた。

九留と阿留がそれを刀で防ぐと跳んだ。

「遅い。」「遅いわよ。」

ズバー・・

近くにいた一族の首が艶やかに跳ぶ。

「御館様っ―・・!!」

透は抜刀すると折り返しに両脇から迫りくる九留と阿留の刀を受け止めた。

「くっ―・・」

「透!!」

「おいおい、よそ見してる暇なんてないぜ?」

琥珀の拳が宙をかけ、それをよけようと身体を沈めた館様の髪を一束切り裂いた。

印を組み琥珀に攻撃を仕掛ける。

「やるねぇ・・」

琥珀は二度、三度と打ってくるとふいをつき館様の懐へと入ってくる。

「―・・!?」

「そらよっ!!」

腹に気を叩き込まれ館様は身体を九の字にして後ろへと吹き飛ばされた。

つぶれた車体にぶつかった。

「がっ・・はっ・・・・・・」

口からどす黒い血を吐き出す。

琥珀は余裕綽々といった感じで館様へと近づいていき、鉄屑と化した車にもたれかかる館様

の肩を片足で押さえつけた。

「っ!?」

意識が遠くなりかけていたのを痛みで無理矢理覚醒させられた。

琥珀が顔を近づけ下がっていた顔を、髪を引っ張り上げて起す。

「何だあっけないな。やはり術を使った後を狙ったのは正解だったらしい。―・・殺しゃしねぇさ

まだお前の体には用があるんでな」

「・・・な・・・・・・・にを・・・・・・・・・・・?」

「―・・我が主の呪がたっぷりと染み込んだその鬼狩りの体。主のために使わせていただくよ。

くくっ・・はははははははははははは!!!」

高らかに笑う琥珀の声を聴きながら館様は深い混沌の闇へと落ちていった。

遠くの方で透が自分を呼ぶ声がした。

視界がブラックアウトしていく。

最後に妹の生まれ変わりである少女を思った。

(鈴鬼・・・・・・・麗利・・・・・・・・・)

全身の力が抜けパタリと倒れこんだ館様を見下げて琥珀はフンッと鼻で笑う。

「九留、阿留」

「「はっ。」」

刀を手に持った二人が後ろに控える。

「丁重に城までお連れ致せ。行くぞ」

「「承知」」

パリィィィーン・・

何かが崩れる音がした。

それと同時に音が戻ってくると、あたりが一気に騒がしくなっていった。










                                       








館様ピンチです。
何か色々と大変なことになってます(汗)
友人にこの回をみせたら"途中の館様の回想?ででてくる台詞って誰がどれなのよ?”って
いわれました(笑)え〜っと・・まぁ想像してください。
それでも気になるかたは言ってくださればお教えしますので。
で、そろそろ二章も終わります。一章に比べれば少ないかな・・?
三章では主人公である麗利ちゃんをもっと活躍させねば・・と思っております;;
何だかサブキャラが目だってしょうがないです・・
これからも頑張るんでどうか見捨てないで応援宜しくお願いします!!
 
                                           墺離 拝