5.
6時限目が終わり、SHRもあと数分で終わりを迎えようとしていた。
「はい、それじゃあこれにて授業終了。皆ぁ掃除さぼらないようにねぇ。さようなら」
小和田の言葉が終わると同時に皆が席を立つ。
―その前に。
ガラっとドアが開いた。
「麗利ちゃ〜んっ!!迎えに来たわよ〜!!」
「暁美さん!?」
「俺もいるよ〜ん!!」
と、暁美の後ろから顔を出したのは流であった。
「やっほー麗利ちゃ〜ん!!元気でやってる〜?」
「えっ・・・あっ・・・まっ・・まぁ・・・・」
「あのね、今日はさして生徒会の仕事も無いから麗利ちゃん連れて遊びに行こうかなぁ〜とかて思って
るんだけどぉ何か用事とかある?」
「いえ、特には。あっあの私掃除あるんで少し待ってて貰えますか?」
「いいわよ〜じゃぁ校門の前で待ってるから早く来てね!ほらっ流!いくわよっ!!」
「いててててててて・・・耳ぃひっぱんなって!!!」
まるで嵐が如く去っていった二人に教室内は静まり返っていた。
(今のうちに掃除にいったほうがいい・・・かな?)
麗利は鞄を持ってそっと席を立ち教室を後にしようとする。
が、そんな麗利をめざとく見つけ、一番先に我に帰ったのは奈津子だった。
「ちょっ・・・麗利ちゃんっ!!高矢先輩と小島先輩とも知り合いだったの!?」
「え〜っと・・・まぁ・・・」
クラス中の視線がゆっくりと集まる。
・・・・・・何だかいたたまれない雰囲気だ・・・
「え〜っとぉ・・昨日の部紹介のときに小島先輩に誘拐・・・もとい勧誘されて・・・え〜とね・・・」
後ろ手でゆっくりとドアを開く。
「・・・・・生徒会の会計になっちゃった。てへvっということでじゃっ!!皆また明日!!」
そのまま脱兎の如く教室を出る。
後ろの方で皆が予想通り何やら叫んでいるのが聞こえたが今ここで質問攻めにあっている暇は無い。
まぁその分明日が大変だろうが・・・・さっさと掃除を終わらせて明美さんたちのところへ向かなければ・・・
「あっ」
実は今月の掃除場所が教室だったというのに気付いたのは正面玄関に着いた時であった。
校門前。
生徒の注目を浴びながら暁美と流は麗利を待っていた。
「で?今日は何処行くの?」
退屈そうにその場にしゃがみこみ車の流れを見ていた流は校門にもたれかかっている暁美を見上げる。
暁美は髪の毛をいじりながら応える。
「そうね・・渋谷辺りにでも行こうかしらねぇ。あそこらへんは人もアレも多いし」
少し驚いたように流は眉を上げる。
「何?もう麗利ちゃん試すの?」
「私達と出会ったからには何か変化が起きてるはずよ。現にあの子は私達を見たときにそれぞれに”星”を
みたんだから」
それでも流はまだ納得がいかないようだ。
まるで娘の初デートを渋る父親のような顔になっている。
「でもやばくない?渋谷は一週間ぐらい前に起きたばかりだろ?六本木でも3人殺られたんだろ?」
「大丈夫よ。万が一って事があっても私達がいるんだもの」
自信満々にいう暁美のその言葉に流は”それもそうだな”と思った。
「まっそうだな。俺達ゴールデンコンビがついてりゃぁ・・」
「誰と誰がゴールデンコンビなのよ。かってに変な称号つけないで」
暁美が不満そうに顔をしかめる。
流は捨てられた子犬のような顔で暁美を睨んだ。
「何だよぉ。いっつも仕事するときはお前と俺でやってるだろぉ!!俺じゃ不服かよぉっ」
「そうよ」
「うわっ即答!?」
「すいませ〜ん!!お待たせしちゃって!!」
校舎から結局は掃除をサボることにした麗利が走ってくる。
「ううん。全然OKよvさっいきましょうか♪」
上機嫌で麗利の手を引っ張り先を行こうとする暁美。
しかし麗利は校門の前にあるモノに目を奪われる。
「あっあの・・」
「ん?なぁに?どうかした麗利ちゃん?」
「小島先輩・・・あのままでいいんですか?」
麗利はうずくまって沈んでいる流を指差す。
「あぁアレ。いいのいいのv麗利ちゃんが気にするようなことじゃないわvほっといても大丈夫よ♪さっいきましょ
麗利ちゃんv」
「えぇっ!?あっえぇっと・・・小島先輩早くきてくださいね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(しくしくしくしくしくしく)」
流が立ち直っていなくなった二人を必死の形相で追いかけたのはそれから五分後のことであった。
男は街を歩いていた。
どこもかしこも人で溢れかえっている。
もうすぐ日が落ちる。
それでも人の数は減ることは無く逆に増えていく一方だ。
男にとってそれほど好都合なことはなかった。
(直、狩りの時間だ・・)
先日は運が良かった。狩場として作った”場”に余分に二人も迷い込んできてくれたのだ。
五百年前うけたこの傷を癒すためにはまだたりないが・・・
(我等が王がもうすぐ目覚める。おそらく奴等も既に動き始めているのだろう。今一度戦が起きる、いつでも
復帰できるように元に少しでも戻らねば・・)
五百年余りの時をかけて再構築してきた。
王が生きていたのならば訳もなくできていたことを五百年もかけてしまった。
多くの時を生きる我等とて五百年はあまりに長く、何も出来ないが故に退屈だった。
そして近年、主の目覚めを感じ取り、残る部分の再生を人の肉と魂で急いで癒してきた。
(あぁ憎き”鬼狩り”共め・・・恨めしや・・・恨めしや・・・)
男は大きく息を吸い込む。
淀みきった空気とともにその場の負の生気(イキ)が男の中へと入ってくる。
(何と心地よい場であるか。この時代ならば奴等に勝てるかもしれん)
男は人ごみの中に眼を走らせ餌を探す。
あまり頻繁に狩りを行うと奴等に気付かれる恐れがあったが最近はそうもいってられなくなったのだ。
それほどまでに王の目覚めは近い。
己が使えている将様も動いておられる。
急がなくては・・・
ほんの少しの焦りが男の胸に宿っていた。
その時視界に入ってきた少女を捕らえた。
黒髪の人間の感覚で言うならば中々の上玉であろう少女だ。
連れが二人いるようだがやはりここは焦りは禁物。慎重にいかなければ・・・一人だけにしよう。
(一番上手そうなあの娘。アレを喰らおう)
ショッピングセンターの中へと入っていったその少女を追いかけて男は歩き始めた。
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