二。







二時限目。

麗利は"交流会”なるレクリエーションで多数の女子に囲まれていた。

「ねぇ九木本さん、滝先輩とお知り合いなの?」

「えっ・・・?滝先輩って・・・?」

聞きなれない人の名前に首を傾げるとあきれたように一人の女子生徒が言う。

「朝教室に九木本さんと一緒に来た人よ。ね?本当にお知り合いじゃないの?」

「えっ?うっうん・・・道に迷ってたのを助けてもらっただけだし・・・・ただの通りすがりだったみたいだし・・・・あの人

"滝先輩”っていうの?」

「そう!榊野 滝先輩vでも幸運よねぇ、初日からあの人に声をかけてもらえるなんて・・・羨ましい・・」

一斉に女生徒がため息をつく。

何が何だかわからない麗利はただただ首を傾げるだけだ。

「"滝先輩”ってそんなに有名な人なの?何だか在籍以外の外部入学の皆も知ってるみたいだけど・・・・確かに

あれだけかっこいいとファンクラブの一つや二つありそうだよねぇ」

「うっそっ!?麗利ちゃん知らないのぉっ!!」

ざわめく女生徒たち。

その中でもとくに声を上げたのは前の席の―確か遠藤奈津子といったか・・・丸い眼鏡越しに大きく目を見開いて

いる。

「”榊野滝先輩”っていったらこの学園の名物でもある"生徒会”の生徒会長だよっ!!"生徒会”目当てにここに

入学してくる人もいるんだから!・・・・・本当に知らないの?」

「うっ・・・・・・うん」

奈津子の剣幕に押されて麗利は後ずさる。

しょうがないなぁといったかんじで奈津子は眼鏡を上げた。

「わかった。本当に知らないようだから麗利ちゃんのために特別にここの”生徒会”のこと教えてあげるわ」

”しょうがない”を通り越して"嬉しそう”に奈津子は喋りだす。

「"生徒会”メンバーは全員三年生で、まず生徒会長の榊野 滝先輩、副会長の原田 裕先輩,書記の高矢 暁美先

輩、小島 流先輩、会計の神川 雪先輩の計五人で構成されてるの。

で、その五人が文句の付け所が無いほど顔が整ってるし成績も優秀だから人気があってここの名物になってるの

よ。さっきも言ったとおり彼等を間近で見たいがためにここに入学してくる人も多いのよ?外の高校とかにもファンクラブ

も出来てるぐらいだしね。それにこの学園には"生徒会”は高等部にしかないの。だから余計に人気が高まるんだけ

どねvしかもその優秀さから五人とも一年生のときからずっと"生徒会”に所属してるのよ。どっちかっていうと"生徒会"

は一種の"部活"みたいなものね。選ばれた人だけが入れる"部活”。先輩たちが”生徒会”に入ってからメンバーの追加

もないから余計神聖化されてるのよねぇ・・・あっちなみに生徒会室は北舎の最上階ね」

とその方向に向かって指で示す。

ノンストップで喋る奈津子に感心しながらも麗利は一字一句聞き落とさないようにさらに喋り続ける奈津子の言葉に耳

を傾けた。

「じゃ次は先輩たちの特徴とかちょっぴり詳しく教えてあげるわ。

滝先輩は・・いいわよねvさっきあったし。副会長の原田先輩は黒髪のセミロングで目がきりっとしてるの。お家が神社

らしくって何だか神秘的な雰囲気をかもしだしてるのよねぇ〜

次に高矢先輩。ウェーブのかかった長髪でものすっごく美人よ。まつげが凄い長いの。何だかキツイ印象があるんだけ

どそれがまた大人の魅力って感じで・・スタイルもいいし男子の注目の的よ。

小島先輩は茶髪で右耳に特徴のある灰色のピアスを3個してるの。さっぱりとしたひとで笑顔がかっこいいのよ〜!誰

とでもすぐ友達になったりして運動神経抜群で高矢先輩と幼馴染なんだって。

で最後に神川先輩。皆に”ユキちゃん”って呼ばれてて男の人なのにと〜っても可愛いの。正確もホワワンとしてて・・こぅ

何だかみてるとぎゅっとしたくなるっていうかぁ・・・・もうとにかく!!皆素敵過ぎて完全なるアイドルばっかなのよ!!」

「・・・・・・・何か物凄いね。遠藤さんの説明聞いて物凄くそれが実感できたわ・・私そんなに凄い人たちの・・・しかも一番上

の人と話しちゃったんだ・・・」

生徒会長。

皆が憧れてやまないそんな人に道案内させた上にガン見・・・・

恥ずかしい・・・

ちっちっちっと奈津子が指を振る。

「驚くのはまだまだ早いわよ麗利ちゃん!!滝先輩は理事長の弟なのよっ!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・何だか本当に凄い人にお世話になっちゃったんだ・・・」

そういえば理事長は先ほどの入学式で見た。

確かまだ25歳だった気がする。

遠目でよく判らなかったが見目は良かったし、成程。確かに今思えば彼に似ていたかもしれない。

「そういえば苗字一緒ね。"榊野 京介"理事長だったけ?」

「あの人もある意味うちの名物よ。本当にいろんな意味で・・」

腕を組んでうんうんとうなずく周りの在籍学生たち。

「?・・・っていうか洋子ちゃん詳しいね。在籍学生間では常識なの?」

「まぁ在籍学生ならこのぐらいは・・・ね。でも驚くことなかれ!コレだけじゃないのよ。実はお姉ちゃんが小島先輩と

同級生なのよ。小島先輩とも仲がいいからいろんな情報を聞きだせるのよ!なんだったら先輩たちの身長・体重・

趣味・その他もろもろ教えてあげるわよ?」

と、鞄の中からなにやら手帳のようなものを数冊取り出す。

「お姉ちゃんから聞いた"生徒会”のすべてをここに記してあるわよ!!どう?買わない?」

お金とるのかよっ。

「いや・・・・遠慮しとくわ・・・・」

「そう?じゃ他の皆は?一冊500円からv数量が限られてるから早い者勝ちね」

扇のようにその手帳をヒラヒラさせると不敵に奈津子は微笑んだ。

商売人の目だ・・・

そしてそれに殺到する女子たち。中には高矢先輩の情報を欲する男子生徒たちもまざっていた。

麗利はそこからかろうじて脱出する。

既にセリが始まり価格が一気に上昇していた。

それをみて担任の小和田は・・・

「あらあら。皆もう仲良しなのね」

って止めないんですか。・・・先行きがちょっとだけ不安にってきた。

(どうかなにごともおこりませんように・・)

これが入学初日の出来事だった。

















夜の繁華街。

時刻は真夜中の0:28

それでも町の明かりは消えない。

会社帰りのサラリーマンやOL。恋人や若者たちが行ききする。

そしてここにも一組のカップル。

二人は大通りをはずれすぐ側の路地裏に入る。

接吻を繰り返した後、男が女のブラウスのボタンを取り始める。


「ねぇ〜やっぱホテル行こうよぉ。誰かに見られちゃうよぉ」

「誰も来ねえって・・来てもすぐどっかいくだろうさ。それに俺もう我慢できねぇし」

男は女の胸に顔をうずめる。

と。

ガタンッ

すぐ側で物音がする。

「?何だ?」

続いて何か引きずるような音・・

ズズッズズッ・・・ズズッ・・・・・・

「やだ・・・何か近づいてきてるよぉ。気味悪いなぁ・・」

二人は暗闇に目を凝らす。

そしてそれは現れた。

「何だぁお前?」

そこにいたのは長身の男。

刈り上げられた髪、日に焼けた肌。そこらへんの若者が好んできているような服。

二つを除けば何処にでもいる若者だった。

その瞳。

薄暗くて見えにくいのにその瞳だけははっきりと闇にうかんでいる。

血のように赤い瞳。そしてそこにはなにも写っていない・・

そしてもう一つはその手に握られた・・・・

「ひっ―・・」

女が短い悲鳴を上げる。

男が持っていたもの。それは頭をわしずかみにされひきずられている人間の上半身・・

腹からはなにやら奇妙に飛び出した内臓がちぎれ出て血が溢れている。そしてその顔は恐怖に染まり頭は半分陥没して

いた。

赤い瞳の男がその唇を吊り上げる。

笑みの形に。悪魔のような笑みに・・・

「今日は餌の食いつきが良い様だ・・一度に三人か・・・ふむ・・」

「なっ―!?」

恋人の男の言葉は続くことは無かった。

ザシュッ

放物線を描いて首が飛んだ。

ドサッ

「あ・・?え・・・・?」

女の足元に転がる恋人の首。

頭を失った体は血を噴出しながらその場に崩れ落ちた。

「あっ・・・・あぁっ・・・・ひぃっ・・」

女はその場にへたりこむ。

「い・・・っいやぁぁぁぁぁっ!!こっ・・こないでぇっ・・・・!!!だっ・・誰かっ!!誰かたすけてぇぇぇぇ!!」

背中が壁にぶつかる。

もう下がることが出来ない。

男が一歩、又一歩と近づいてくる。

「あっ・・・あひぃっ・・」

女は顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしながら失禁した。

「ひっ・・こないでぇっ・・・!おね・・っ助・・けっ・・・やぁぁぁっ!!!」

叫びもむなしく。

ザシュッ

首が飛ぶ。

プシューと血をあげながらその体がズリズリと崩れ落ちていった。

赤い瞳の男は徐にそのあふれ出る血をすすり始めた・・

「まだだ・・まだたりない・・・まだ・・・後・・・」

ブツブツと呟きながらまだ暖かい死体を次々に切り刻みながら血をすする・・

べちゃ・・・ぐちゃ・・・・ずずっ・・ぐちゃ・・

その音は誰に聞かれることも無く闇に吸い込まれていった。






―翌朝。三体のバラバラ死体が新たに発見された。