一。
朝日が射して眩しい。
気温も暖かい。どうやら過ごしやすい一日になりそうだ。
麗利は起き上がると背伸びをする。
机の上には新品の制服・鞄・・・
それを見て麗利はふふっと笑みをこぼす。
(今日から私も高校生かぁ・・・)
「よっしっ!!」
気合をいれると真新しいシャツに袖を通す。
着替え終わるとリビングへ行きテレビのスイッチをつけ焼いたパンにペタペタといちごジャムをぬりたくる。
都内でも偏差値の高い私立辰波(タツナミ)学園に合格した麗利は現在、前々から親に頼んでいた”一人暮らし”
なるものを満喫させてもらっている。
辰波学園に通うには九木本の実家は遠すぎる。
丁度学園のすぐそばに親戚が保有するマンションがあり7Fの一室を借りている。
室内も中々広く、比較的新しい建物なので快適だ。
ベランダから外を見れば学園は目と鼻の先だし交通にも不便は無い、交番もコンビニもある。
好条件過ぎるほどの好条件なこの部屋を借りられたのも心配性な両親と親切な親戚と学園に合格できた自分
の努力によるものだろう。
熱いコーヒーを冷ましながらテレビにうつるニュースキャスターに目を移す。
『今日から学校が始まるというところが多く、朝は久しぶりに学生の姿が見られました。』
時刻は0730.
「もうそろそろ準備しようっと」
『次に昨夜未明支部渋谷近くの路上で男性がバラバラ死体で発見されました』
(あ・・・・・・まただ)
ここの所こういう事件ばかりなのだ。
麗利は長い黒髪をときながらブラウン管を見つめる。
『鋭利な刃物のようなもので切り裂かれており無造作にその場に放置されてしまいました。このケースは今回で
五件目ということで前の被害者との関係を調べていますが、今のところそういった接点はなく無差別連続殺人事
件であろうと―・・』
「やだなぁ、本当物騒な世の中」
プツリとテレビを消す。
「さぁ行きますか」
鞄を手に取り意気揚々と麗利は家を出た。
『私立辰波学園』
初等部、中等部、高等部で成り立っている。
生徒総数3132名。教員数68名。
エスカレーター式のシステムではあるが外部入学生も多く半数以上を占めている。
在籍学生と外部入学生の生徒間の隔たりは特になく平和な学園だ。
高等部は4階建ての北舎、中舎、南舎のデザインセンスの良い校舎だ。
学園の敷地は都内であるというのを忘れるぐらい広くその半分は森に覆われていた。
高等部専用の校門前に麗利はたっていた。
受験会場は別だったので間近で見ると改めてこの学園の凄さに驚く。
「すっごぉい・・・デカい・・・・・」
周りには麗利と同じく外部入学で入った新入生と思しき生徒が興奮冷めやらぬ表情で次から次へと敷地内へ
入っていく。
麗利もそれにならい敷地内へと足を踏み入れた。
人の波に従いながら進むと正面玄関に人が群がっているのが見えた。
クラスの貼り出しらしい。
「え〜っと・・私のクラスはっと・・・受験番号が39だから・・・・39・・・39・・・とあっあった!1-E・・・か。一年の教室は
何処だったかなぁ?」
すばやく確認すると人垣から離れ校舎内へといそいそと入っていった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ここは何処・・・?」
麗利は途方にくれていた。
一年の教室は中舎の二階というとこまでは判った・・・の・・・・だが・・・・・
(迷っ・・た・・・・・?)
いくら広いとはいえ複雑には出来ていないこの学園内をどうやったらここまで迷えるのか。
麗利は超がつくほどの方向音痴である自分をつくづく呪った。
よっぽど慣れた道でない限り必ずといっていいほど迷子になる。
「あぅ・・入学早々ついてないなぁ・・・」
何度目かのため息を付く。
「ねぇ、君そんなところに座り込んでどうしたの?お腹でも痛い?」
「いえ、道に迷って嘆いてるんです・・・」
「・・・・・・・・・。君新入生だよね・・?何組?」
「Eですけどぉ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・って誰?」
何気なく普通に会話していたことに気付いてばっと振り返るとそこには栗色の髪の男子生徒が立っていた。
中肉中背の色素の薄い髪と肌を持ち合わせていて少しきつめの顔だが整った顔立ちをしている。
校章の色が違うから上の学年なんだろう。
(わー!!イケメン〜やっぱハイレベルなだけあるわ〜・・・・・・・・・・・ん?)
ふと、その瞳に麗利は惹かれる。
(なに・・・?)
どこかでみたことがあるようなー・・デジャブというやつだろうか。
吸い寄せるようにその瞳を見つめ続けていると黒い瞳の中にきらっと何か光るものが見えた・・・気がした。
「星・・・・・・?」
「えっ?何?」
思わず呟いてしまった自分にはっとしてあわてて目をそらす。
「えっあっ・・いっいえ!何でもありません!!」
「?そう、ならいいんだけど・・Eだよね?案内してあげるから付いておいで。」
というと彼はスタスタと歩き出してしまった。
「あっ!はっはい!!」
麗利もあわててその後に続く。
(絶対変な子だと思われた!!馬鹿馬鹿。いきなりガン見するとか失礼極まりないじゃない!!)
「君、名前は?」
「あっ、九木本 麗利です」
「九木本さん・・ね。どう?この学園は?気に入ったかな?といってもまだ今日が初日だからなんともいえないかも
しれないけど・・第一印象としては気に入ってくれたかな?」
「はっはい!!頑張って勉強したかいがありました!!」
「そう、それはよかった」
笑った顔はきつめの印象をガラリとかえ、無邪気な子供をおもわせた。
(かっ・・・・かっこいい・・・可愛いんだけどかっこいい!!こんな人がいるなんて・・やっぱりこの学園選んで正解
だったかも)
なおさら先ほどの自分の失態が悔やまれる。
何度か廊下を曲がると前方に「1-J」という札が見えてきた。
「1-Eはここだね。えっと・・君の席は・・・・・」
ご丁寧にも教室の中を覗き込んで関まで探してくれている。
「窓際の一番後ろみたいだね。日差しが当たって一番気持ちのいい席だよ、うらやましいな。じゃ、僕はこれで。
九木本さん、今度からは迷わないようにね」
「あっどうもありがとうございました!!」
「どういたしまして」
彼は笑いながらヒラヒラと手を振り去っていった。
「あっ!?」
彼が去っていった後、麗利はふと気付く。
(名前聞くの忘れちゃった・・・・う〜ん・・・まぁまたあえる・・よね?)
再会を祈って麗利は教室の中へと入っていった。
−・・辰波学園の高等部北舎の最上階にその部屋はある。
部屋は薄暗く中には五つの人影。
「彼女がみつかった」
沈黙を破ったその声に空気が揺れる。
「これでやっと全員そろったのね」
女が安堵のため息をつきながら呟いた。
「しかし彼女は目覚めているのか・・?」
冷静な男の声が問う。
「いや。だが兆候はある」
最初の男の声は期待に満ち溢れていた。
キーンコーンカーンコーン・・・
放送がかかった。
『只今から入学式を行います。新入生の皆さんは体育館へ移動してください』
「ということはまだ力の使い方を知らないんだね」
中性的な男の声がう〜んと困ったように唸る。
「どうすんだ?奴等に気付かれたら真っ先に彼女が狙われるんじゃねぇの?」
能天気そうな男の声に最初の男がピシリと言い放つ。
「そうなる前に手は打つ」
会話はそこで一旦途切れた。
外は強い風がふき、桜の花びらが舞っていた。
学園を取巻く森もざわめく。
と、女が楽しそうに呟いた。
「ふふっ、どんな子になっているか楽しみね」
戻 進