鬼ヲ狩ル者タチ

序章


風が冷たく吹きすさむ新月の夜。

月明かりだけが便りのこの時代、暗闇に覆われているはずの山々の間にぽつりと光が灯った。

そしてそれは瞬く間に広がっていく−・・炎。

めらめらと燃え滾る炎は山肌に立てられた城の城壁をなめるように勢いを増していった。








辺りは燃え盛る炎に包まれている。

(城に火を放ったのか・・・・)

炎に囲まれながら男は部屋に立ち尽くしていた。

男の前には城の最上階に続く階段がある。

そこにはまだ真新しく乾ききらない赤黒い血が点々と付着していた。

この血を追って男はここまで来たのだ。

(我等が宿敵この上に)

一歩一歩踏みしめるように階段を登っていく。

気配を殺して最上階に上がるとそこはひんやりとしてシン-・・と静まり返っていた。

まだここまでは火の手はきていないようだ。灯篭の火だけが揺らめいている。

そして部屋の奥。

暗闇に目をこらせば龍が描かれた大屏風の前には乱れた長髪をそのままに腹から出る血を手で

押さえ苦しそうに座している男がいた。

その男に対面するように立つと手にした刀を構える−・・やっとここまできた。

ここまでくるのにどれだけの同胞が失われたことか・・・

「私を・・殺すか・・・」

座る男はか細い声でつぶやいた。

「否」

力強い声でそれ否定する。

「滅ぼすのだ。二度とこの世に出てこれぬよう」

「くくっ・・・くくくくくくく・・・」

腹の痛みなど忘れたかのように男は肩を揺らして笑う。

顔を覆い隠すようにたれていた髪の間からその鋭いまでの目が光りこちらを捉えた。

「私は滅びぬよ!!ここで命尽きようとも必ず・・・必ずや我が目的を叶える為に黄泉帰ってくれるわ!!

我は終わらぬ!!ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ----ぐっ!?」

笑う男の胸に刀が深く突き刺された。

「ならば我等は何度でも貴様を滅ぼそう!!何度でも黄泉帰って貴様等を倒してくれるっ!!」

ぐぐっと、さらに刀に力をこめる。

「ぐ・・・・げほっ・・・・くくっ・・・・私は・・不滅だ・・・・必ずや・・・・必ず・・・・・かえって・・・く・・・・・・」

男の頭ががくりと後ろに倒れ・・・・・・・・そして絶命した。

途端、耳障りな音と供に男の体は黒い霧となり衣服を残して消えてしまった。

「雷寿(ライジュ)殿っ!!」

後ろから自分を呼ぶ声と駆け上がってくる足音がする。

「鈴鬼那(スズキナ)・・・・」

振り返れば息を乱した女性が階下から姿を現したところだった。

彼女の目は何かを探すかのようにあたりを漂いやがて主を失い崩れ落ちた着物へと向けられた。

「・・・・・・倒されたのですか?妖王を」

「あぁ・・・・・だが安心は出来ませぬ、あやつが完全に復活しないという保障はないのだから」

「そうですか・・・・・まだ・・・戦は終わっていないのですね」

「長くなりますぞ・・・・お覚悟を」

「はい」

そして二人は城を後にした。






高く高く炎と煙を上げて燃え盛る城。

夜空の下で。星空の下で。昼間のようにあたりを明るく染め上げながら燃えていく。

その光景は妖しく美しかった。








時は戦国。

歴史上には記されれることのなかった一つの戦が静かに幕を閉じた。。

−・・だがまだこの戦は終わらない。終焉ではないのだ・・