<3>
「おっ落ち着いてください隼人っ!!」
「いくら白霊の頼みとはいえそれだけは聞けん!!止めるなぁっ―・・ぐぁっ!!」
「はいはい、おちついて。隼人殿、腕力で俺に勝てるなどと思わないでくださいね。」
「ひゃひひゅひょまひぇっ(雷寿、お前)!?ひゃなへっ(離せ)!!」
すんでのところで隼人は追ってきた二人におさえられる。
幸い、緑妃は気付いておらず、また別の店に入っていったようだ。
「あっ、やはり緑妃はあそこに入っていったのですね。」
鈴鬼那達が追いついてきた。
「ひゃなへっ(離せ)!!ひゅひゅひなひゃまひょうかひょめなひでひゅだひゃい(鈴鬼那様
どうか止めないでください)!!」
「たわけ。お前の早とちりだぞ隼人。」
こつんと龍寿が早との頭を小突き黙らせる。
叩かれた隼人のほうは何が何だか分からないようだ。
「はひゃとひり(はやとちり)?」
「これです。」
戒めを解かれた隼人は鈴鬼那から中に何かが入った子袋を受け取る。
中を開けてみるとそこには沢山の花びらが入っていた。
「これは・・・・・?」
「特注の匂い袋だそうです。色物屋さんでは本業以外にも若い女人たちにこういうものを
売られているようで・・・緑妃も先程はこれを買いに寄ったらしいのです。何でも緑妃は何
度もあそこに足を運んでは気に入った匂い袋が見つかるまで探していたとか・・今日やっ
と緑妃が頼んでいた匂い袋が入ったそうなのです。」
「はぁ・・・・・?」
「隼人は今度の三日月が生まれ日でしたね?」
「えぇ、そうですけれども・・?」
鈴鬼那はにっこりと笑った。
「これを買う人たちはこの後絶対反物屋に寄るそうなんです。匂い袋を包む袋を作るため
に。皆さんこの匂い袋を殿方に贈るそうで。色物屋の人も熱心に匂い袋を探す緑妃に尋
ねたそうです。”そんなに一生懸命に匂いを選んで贈るお相手はどんなかたなんだい?”
と。」
―・・いつも無茶ばかりやってる私の相棒よ。どうしようもない馬鹿だけど、目が離せないの
よねぇ・・次の月があいつの生まれ月なの。それまでにあいつに合う匂いを見つけなき
ゃね・・ちゃんと協力してよ?
「・・・・・・・・・って、え?」
隼人は途端顔を掌で覆った。
耳まで真っ赤になっている。
「なっ・・・・・・・なんだそれ・・マジかよ・・・・・・・あっ・・えぇっと・・すいません。俺先帰ります。」
「はい。お気をつけて、隼人殿。」
走り行く隼人の背を皆で見送りながら鈴鬼那と沙覆流以外は溜息が隠せなかった。
「あぁ・・でも・・・・・・」
鈴鬼那が不思議そうに呟いた。
「何故、緑妃は”顔を真っ赤にしていた”のでしょうか?だってそれは"恋の病”なのでしょう?
普段隼人と緑妃はあんなに口喧嘩ばかりで・・今回の匂い袋も緑妃が仲直りのために隼人に
贈るものなのではないのですか?それに隼人も・・・・・あんなに顔を真っ赤にして。どうしてな
のかしら・・・・?」
―・・わかっていなかったのか。
このときは皆(沙覆流を除く)がそう思った。
いやはや天然とは恐ろしいものだ。
「隼人、いる?」
ドキリと鼓動が脈打つ。
「なっ・・・・・・なんだ?」
部屋に緑妃が入ってきた。
自分らしくない。
何でこの女にこんなにドキドキしているのか。
「これ・・あげる。」
ひょいと無造作に投げ出されたものを受け取る。
「?」
水色の小袋だった。
中に何かが入っている。
花びらが数枚と石が一個。
緑色と灰色が綺麗に混ざった石だ。
「あんたもうすぐ生まれ日でしょ?それ守り石。こないだお社にいったら売ってたから・・ついで
にあんたの分も買っといてやったのよ。」
「この花びらは・・・?」
「只の飾りよ・・・」
「この袋・・・・・・お前が縫ったのか?」
緑妃が一瞬ドキッとしたように立ちすくむ。
「そっそれは・・・布が丁度あまってたからついでに袋も作ってやろうかなぁ・・って・・べっ別に
いらないんなら捨ててもいいわよ。」
「・・・・・・いや。両方とももらっとく。」
「そう?じゃね。」
緑妃が立ち去ろうとするのを隼人は呼び止めた。
「・・・・・・緑妃。」
「なっ何よ?」
隼人は緑妃に背を向けている状態でよかったとつくづく思った。
「これ。いい匂いすんな。袋。」
匂い袋で布に匂いをつけて、それが持続するようにと匂い袋の中身を入れる。
本当にいい匂いだ・・
「そっそう・・・?アンタの気のせいじゃない?じゃね。」
あー本当に見られなくて良かった。
顔が凄く緩んでる。
だって嬉しいもんな。
「へへっ・・・・・」
石を外からさす夕日にかざす。
緑色と灰色が何とも綺麗だ。
緑妃と隼人の色。
袋に戻して紐で袋の入り口を改めて固く結び、首にかけそっと服の中に入れる。
マジで嬉しい。
「・・・・・・・あいつの生まれた日には何やろうかな・・」
考えるだけで楽しかった。
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