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「はぁ・・・・事の原因は緑妃であったか・・・」
場所は屋敷の奥にある”柊の間”
そこで龍寿は白霊から事の次第を聞いていた。
部屋の隅では、鈴鬼那と二ヶ月ほど前に分家から白霊が連れてきた沙覆流が『恋』
について、般若から至極真面目に教えられていた。
「その様で・・・といっても僕も先程屋敷の女中達の噂話を立ち聞きしただけなのです
けれども・・・」
白霊は”神人(かむひと)”(現代ではアルビノというが)特有の赤い瞳をパチパチとさせ
て笑った。
十四歳になるこの少年は実年齢よりも遥かに大人びている性格であった。
「それで?その噂とかいかようなものなのだ?」
雷寿は興味があるのか身を乗り出して聞いてきた。
「はい。何でも緑妃殿は最近何をするのにも上の空のご様子で・・・・あっ勿論任務のとき
以外ですよ。時々切なげに夕日を見ていたりとか、何か考え事をしているかと思えば急に
赤くなって呆けたりだとか・・・それをみた女中達はあれはきっと恋の病に違いない・・・・と
いっていたのですよ。」
「恋の病・・・・・?」
「あの緑妃が・・・・・・・か?」
「うわっ。ぜってぇーありえねぇー」
「!?」
「隼人!気配を殺して後ろに立つなと何度言えば・・・っ」
突如として現れた隼人に兄弟は二人揃って似たような反応で驚く。
「あら、どうしてですか?隼人殿。」
"恋”の説明を聞き終えた鈴鬼那は隼人に驚くこともなく首をかしげた。
「だって、鈴鬼那様。あの緑妃ですよ?あの見目がいいだけの中身超暴力男勝り女がで
すよ?賭け事大好き大酒のみのあいつがまっさか男に惚れるなんてことぉ―・・」
「じゃあ、確かめてみましょうか?」
「「え・・・・・?」」
皆の目が点になる(沙覆流は完全に傍観者となっている。ちなみに般若は目を布で覆っ
ているのでわからないが)
「今、緑妃が出かけたようですよ。何やら落ち着かないような・・・気が不安定ですね。」
この屋敷には鈴鬼那によって創られた結界が張り巡らされているためか、まるで目で見て
いる様に鈴鬼那は実況した。
「周りを気にしている様子でしたから秘密のお出かけのなのでしょう。・・・・後、つけてみま
すか?」
何やらとてつもなく野次馬魂がくすぐられる鈴鬼那の提案に一同は頷いた。
いつもならばこういうことを止めるハズの龍寿もこのときばかりは好奇心が勝ったようだ。
かくして、あまり(というか全然)意味のわかっていない沙覆流を除けば皆が皆、わくわくし
た気持ちで緑妃尾行作戦が開始したのであった。
「何だか、いけないことをしている気が・・・・」
そうつぶやいたのは雷寿であった。
「あら、楽しくありませんか?」
と、般若。
「いや、そうではなくて・・」
と、龍寿。
「あっ、緑妃がいっちゃいますよ、鈴鬼那様。」
と、続いて白霊の会話が続く。
七人はそろりそろりとその後を付いていく。
何とも妖しげな集団だが不思議と人々が往来する街中では目だっていない。
それもそのはず。
白霊によって結界が施されているのである。
・・・勿論、対緑妃対策もかねているのだが・・
「あれは・・・・・・えっと・・・"色物屋”?色を売っているのですか?緑妃は絵心にでも目覚
めたのでしょうか?」
何もわかっていない鈴鬼那と沙覆流以外の男達は何ともいえぬ顔になった。
何と言ったらいいのか・・・
つまりアレである。
現代でいうところのホストクラブのちょっと先に進んだもの・・・・・・まぁ・・・そんなとこだ。
"色”を売るところだ。
色は色でも"春”を売るというのと同じ意味合いの"色”を売るのだが・・・・
般若が"鈴鬼那様がもう少し大きくなられたらお教えしますよ”といってその場の微妙な空
気に収集をつけた。
「緑妃があそこに入ったということは・・・・」
「緑妃殿はあそこで春を売る男に通っているということですか・・??」
「っだと・・・・・」
隼人の機嫌が悪い。
勘のいい龍寿、般若、白霊はそこで成程と気付いてしまう。
(あぁ・・そういうことか・・)
(だからあんなに食い下がっていたんですねぇ・・)
(・・・・若いですねぇ)
「あんの馬鹿野郎・・・」
結界を飛び出しかねない勢いの隼人を鈴鬼那が慌てて止めた。
「あっ待ってください!緑妃が移動してるみたいです。」
鈴鬼那は耳を澄ますようにして気を読む。
「店の裏から出て・・・何だか凄く機嫌がいいみたいです。・・・・・・あっ手に花を持っていま
すね。」
途端、隼人が走り出した。
慌てて雷寿と白霊がそれを追った。
・・・・・・・とめなければつけていたのがばれてしまうではないか。
鈴鬼那達一行もその後に続こうと歩き出す。
と、先程緑妃が入っていった色物屋の前を通り過ぎたとき、鈴鬼那があるものを見つけた。
「あっ・・・龍寿殿。これ・・・・・・」
鈴鬼那に促され龍寿はその指が指したほうを見やる。
そしてすぐにはっとなるとまったく・・と肩を落とした。
「・・・・・・・・・・・・・人騒がせにも程があるな・・」
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