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晴れし時の空は・・・

屋敷の庭に初夏の花が咲き乱れる。
少し早い蝉の鳴き声に耳を傾けながら、鈴鬼那は池の畔にいた。

「今日は日差しが強いこと・・・」

鯉に餌をやりながら鈴鬼那は照ってくる日差しに手をかざし頭上にある太陽を
仰ぎ見た。

チュンチュン―・・

雀が肩に止まる。

「おはよう。今日も暑いですね。」

チュッ―チュンッ―・・

「あら・・・?もう龍寿に気付かれてしまったの?まぁ大変。」

残りの餌を池に放ると鈴鬼那は池にかかる橋の下までいきその真下に隠れた。

―・・鈴鬼那様ぁ・・

屋敷の方から龍寿の声がする。
鈴鬼那は下駄と足袋を脱ぎ、裾をあげると池の中へと入っていく。
それを不思議そうに鯉たちが眺めていた。

「御免なさい。でもこうでもしないとあの目ざとい龍寿ですもの・・すぐに見つかって
しまうわ。少し隠れさせてくださいね。」

だんだんと龍寿の声が近づいてきた。
少し身をこわばらせながらも鈴鬼那はそのまま隠れ続ける。

―・・まったく、鈴鬼那様は一体何処に行かれたのやら・・・

どんどんと橋の上を駈けていく音がした。
鈴鬼那は笑いをこらえていた。
そして龍寿の気配が遠ざかったのを確認すると我慢しきれずに笑ってしまう。

「ふふふふっ・・」

「何をやっておいでですか、鈴鬼那様・・・・」

「きゃっ!?」

背後から突然かけられた声に鈴鬼那は驚き後ろを振り返るとそこには龍寿の弟の
雷寿がいた。

「らっ・・雷寿ど―・・っきゃっ!!」

驚いた拍子に鈴鬼那は池底の石に足を滑らせ全身を池の水に浸からせてしまう。

「すっ鈴鬼那様!?大丈夫でございますか!」

「もっ申し訳ございません・・・ちょっと油断してしまいました。」

助け起してくれた雷寿に礼を言うと鈴鬼那は申し訳なさそうに上目遣いにこういった。

「それで・・・あの・・・・・・・・・・・・・・見逃していただけませんか?」

「・・・・・・・・・。」

雷寿はすぐに呆れたような顔になりなると橋の下から大声で

「兄者ぁー!!鈴鬼那様はここにいらっしゃるぞぉー!!」

と叫んだ。

「あっ酷いっ・・」
すぐにその声を聞きつけて龍寿がやってくる。

「っ!?鈴鬼那様!何をやっておいでかっ!?そんなところでっあぁっ!?濡れてしま
っているではないですか!?」

雷寿にひょいと抱えられ池から出た鈴鬼那はにこやかにさらっと反論する。

「この暑さには丁度よい水温でしたよ。龍寿殿も如何ですか?」

「そうではなくて!!」

「私はもう大丈夫です。いつまでも部屋に閉じこもっているいては体が鈍ってしまいま
す。」

「しかし―・・」

尚も龍寿のお小言が続こうとする―・・がその時、屋敷の入り口から鐘が三度打ち鳴ら
された。

「あら?緑妃たちが帰っていたようですね。私(わたくし)、出迎えにいってまいります。」

「あっ鈴鬼那様!!まだ話は終わってませんよ!!」

しかし聞く耳もたずの鈴鬼那は裸足のまま屋敷へと逃げ帰ってしまった。

「まったく・・鈴鬼那様にも困ったものだ・・」

小さくなっていく彼女の背を見つめ龍寿は溜息混じりに呟いた。

「しかし、鈴鬼那様には驚かされることばかりだ。」

横でそういう弟の言葉に龍寿は首をかしげた。

「何をだ?」

「俺はここにくるまで―・・ほんの半年前までは鈴鬼那様はもっと厳格でおとなしい方な
のばかりと思っていたが・・」

「噂とは当てにならぬものだ。」

「そうだな。あの方はおとなしさの中に激しさをも持ち合わせておられるようだ。何よりも
皆にお優しすぎて・・無邪気に走っておられるところを見ているとまるで外の女子(おな
ご)となんら変わりはない。」

「鈴鬼那様はやんちゃが過ぎるのだ。討伐へ赴かれる際はあんなに凛々しくていらっし
ゃるというのに・・屋敷の中であれでは一族の者達に示しがつかん・・」

「兄者も苦労なされているようだな・・」

今年元服を迎えたばかりの一つ下の弟にそういわれ龍寿は苦笑した。

「まったくだ・・鈴鬼那様も後一年(ひととし)越されれば御年十五歳になられる。世話役
としてはもう少し落ち着いていただきたいものだよ・・」

「今でさえも充分すぎるほど大人びていられると思うが?」

「まだまだだよ。」

二人は互いをみやいながら笑った。

「龍寿殿ーっ!!雷寿殿ーっ!!」

「「?」」

と、当の本人が今一度屋敷の方から走り戻ってきた。

「如何なされましたか鈴鬼那様?」

「そんなに走られては転びますよ、鈴鬼那様。」

少し息を切らしながらやってくる鈴鬼那に二人は声を掛ける。

「お二人に、お聞きしたいことがありまして・・」

「「何でしょう?」」

「"コイ”ってなんですか?あっ池にいる鯉じゃないほうですよっ」

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」」

世間知らずの年頃の少女の唐突な質問に男二人は只立ち尽くすしかなかった。








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