「俺は魔王なんてどうでもいい。この界に興味なんてない。そんなものなりたい奴がなればいい、そうだ

 ろ?」

 その唇は何がおかしくて笑みを刻むのだろう。

 荒んだその瞳は何を・・・・・・・みてきたのだろう。

 「だからハールウェイ、お前が望むなら魔王なんてくれてやるよ」

 「・・・・・・・・・・・ろ」

 冷静になれ−・・幾度も幾度も頭の中で繰り返される言葉が酷く煩わしい。

 そんなもの・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・クソくらえだ。

 「いい加減にしろ!!!」

 殴った。

 拳で、力いっぱい、その白い頬を、ぶん殴った。

 大きく傾いだその体が床に倒れこむ前に胸倉をつかんで無理やり立たせる。

 「さっきから黙って聞いていればっ”興味がない”?”なりたい奴がなればいい”?

 −・・はっ!!」

 笑わせてくれる。全く冗談じゃない。

 「そう易々となれるものならば苦労などするものか!!お前の”それ”はなりたくてもなれるものじゃない

 だぞ!!」

 努力家でも天才でも−・・魔王としての素質が無ければどれだけあがこうがなれる確立なぞ0だ。一体

 どれほどのものがそれに泣いたことか。

 仮に・・・その地位につけたとしよう。だがいずれはその真の魔王の”名”に押しつぶされる日が来る。

 どれだけ高みを目指していようがそのためにどれだけ力をつけようが−・・決してあがることは許されない

 階段。

 「それをあっさりと捨てるというのか!!貴方にしか許されていないというのに!!」

 頬の痛みなど気にした様子も無く胸倉をつかまれたまま彼は冷笑した。

 「なりたくてなったわけじゃない。・・・確かに色々と楽ができて便利だがな、所詮それだけのものだ。

 俺には捨てられるぞ?」

 それだけの価値しかないのだと、せせら笑う。

 その言葉にぞっ−・・と背筋に寒気が走る。

 口元は確かに笑っているのにその瞳は凍てつくほどに冷たい。

 「選ばれておいて無責任だとでもいうか?ならば答えろ、責任とは何だ?ただ力があるからと俺の意思

 など関係無しに勝手に祭り上げた奴らにこそ、責任はないのか?」

 「それは−・・」

 「放せ」

 腕にこもっていた力が抜ける。

 「ハールウェイ・ゴウリザント・ベティーマ。お前、ツマンねーけどいい退屈しのぎにはなった。」

 ハールウェイはただ離したその手を呆然とみつめていた。彼はその様子を鼻で笑うと乱れた着衣もその

 ままに踵を返して部屋を後にしようとする。

 「-・・ならば何故!!」

 その背中に投げつけられたのは怒声にも近い声。

 その声は彼の足を止めるには十分な大きさだった。

 「何故貴方は今なおその椅子に座られるか?」

 続いて響くのは先程よりも幾分か落ち着きを取り戻したものだった。

 「何だ、やっぱり欲しくなったのか?」

 「いいえ」

 ハールウェイは問う。

 「成人前とはいえ、もう幼き頃の貴方ではないでしょう?何者も貴方を縛ることはできない。嫌だというの

 なら興味がないというのなら勝手にやめてしまえば宜しい。どうでもいいのならさっさと捨ててしまえば

 いい」

 「退屈だからに決まってるだろう?今の俺には”コレ”さえ暇つぶしの一つでしかない」

 「違う」

 「何がだ?」

 否定の言葉に多少苛立ちを含んだ声が返ってくる。

 ならば、と今一度問い返した。

 「何故、そのように孤独なのか」

 「−・・俺が?ははっ」

 腹がよじ切れる、と笑って笑って−・・何の気配も無いまま距離を一気に詰められその片腕で首を締めあ

 げられた。

 「がっ−・・」

 「お前で遊ぶのはもう飽きたんだけどな−・・いいだろう、もう少しだけ遊んでやる。そうだ、さっきのお返し

 もしてやるよ。俺やられっぱなしは好きじゃないんだ。どうして欲しい?まずはその五月蝿い舌からひっこ

 ぬいてやろうか?」

 「〜〜〜-・・っっ」

                                 プレッシャー
 その体から怒気が染み出ている。押しつぶされそうになるほどの圧迫感。

 (これが魔王の力か−・・)

 喉を締め付けられるのとは別の圧力によって胸が苦しくなる。肺が−・・心臓が−・・

 (だがそれでも−・・)

 ここが踏ん張りどころだ、と声を絞り出す。

 「何故我々を信用してっくださらな−・・い!!」

 その瞳をまっすぐと見据えて叫ぶ。

 「何?」

 陛下が訝しげに反応する。

 「ふんっ」

 唐突に手が放された。フラフラと後ろへと倒れこみその拍子に机に背を打ちつける。

 呼吸が荒々しいが目はそらされることなく魔王を直視する。

 「信用だと?ははっ・・お前たちの何を信じろという?」

 バサー・・と机の上にあった書類がなだれ落ちあたりに散らばった。

 「−・・」

 「信じるのは恐ろしいですか?」

 あたりに散らばった書類に彼は不愉快気に眉をしかめた。

 「味方などいないと・・・全てが敵だとお思いですか?」

 「・・・・・・・・調べたのか」

 「はい」

 「ふっ」

 すっと双眸を細めハールウェイの顔を覗き込むようにその場に屈み込んだ。

 「さて・・・・・ここまでしっているお前を俺がこのまま帰すと思うか?」

 殺気立つ気配に冷汗が背中を伝った。

 「思いませんね」

 「なら、どうする?」

 強大な力に圧され震えそうになる体を叱咤する。

 「私を−・・いや、私たちを”使えば”宜しいでしょう。」

 「ふぅん?」

 「信じることができないのなら駒として使えばいい。元より我々はそのためにあるのだから。-・・それに

 ”こういった事”は私たちの得意分野です。陛下、あなたよりも私たちのほうがよっぽど上手く立ち回れる」

 やや挑発的な物言いではあるが−・・ハールウェイは確信した。これでいい、と。

 そして-”彼”-は−・・陛下はいつものにやりとした笑みで笑った。

 「はっ!!−・・一々腹の立つ奴だ。むかつくぜ」

 












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<7>怒髪衝天