そうして私が王都へと出立したのは父の乱心(?)から二日後の朝。 迎えの竜車に乗り込み久方ぶりのわが生家を早々に後にした。 遠くで父の恨み言ともとれる声が聞こえなくもないが・・・まぁ無視だろう。 迎えの使者と私をのせた竜車は緩やかに領地を抜ける。 その道中、暇をもてあました私が考えていたことといえば今上の魔王陛下と宰相についてだった。 先の魔王ヴィヒンスト陛下の御世は534年で幕を閉じた。 そして現魔王の治世が始まったのは15年前。 彼の方は当時5つになられたばかりの幼子だった。 先王の末子であり、数いる兄弟のなかで最も魔力を有していたために幼いながらも魔王にたったのだ。 そしてこの15年、宰相は3代交代を迎えている。 1代目は先王からの続く宰相であったが老衰のためか先王をおうように逝ってしまったという。 2代目、3代目は共に4.5年ほど勤めていたがいずれも体調不良を理由に隠居してしまった。 今回、宰相候補として選ばれたのは私を含めて25名。 いずれも名だたる名家から優秀なものが選ばれ集められているという。 6ヶ月の期間を設け競い合うことになっているそうだ。 "そうだ"と他人事のようにいっているように聞こえるだろうが―・・まぁ実際、私にとって今回の"宰相選抜" は"大したことではない"と考えている。 油断大敵―・・確かにそういう言葉もある。 何事も慎重すぎるほど慎重に。少しの油断が後に大きな過ちにつながることはよくあることだ。 過ちが起きてからは遅い―・・だが 候補生のリストを見る限り、今後私の役に立ちそうな者はわりといたようだが、私に敵う者はいないと判断 した。 ちなみに候補生の中で私が一番年少者である。 そういう場合―・・貴族出身のある程度自分の力に自身があるものは士官学校を出たばかりでろくに社交 界にも顔を出さなかった若輩者にはなめてかかってくるものだ。 そして気づいたときには、卵から生まれたばかりの雛とおもっていたものが実は竜だった―・・というオチ がもれなくついてくる。 候補者リストの中には3.4名ほどそうではない者もいるようだが・・ (彼らは使われてこそ力が出るタイプだろう。やはりこの中で最も指導者に向いているのは私しかいない。) 誰かがこれを聞いていれば"何故そうまでいいきれるのか?""その呆れるほどの自信はどこからくるの か"と思わずにはいられないだろうが・・・・事実だ。 自尊でもなんでもない。それが事実だからだ。 (それだけのことだ) ハールウェイはつまらなさそうに鼻を鳴らすと窓の外へと視線をやる。 いつの間にか故郷は遠く、影も形も見えなくなっていた。 街道を通り途中二度ほど休みを取りながら夕方には竜車は王都へと辿り着いた。 目の前にはこの界の象徴とも言える夜の城がみえる。 幼少の頃はよく父に連れられ遊びに来ていたものだが・・・最後にこの門をくぐったのはいつだったか。 確か先王が身罷られた折の追悼式に参列した以来だろう。 その後すぐに王都より離れた第三都市ヴェノムにある士官学校へと入校したのだ。 そして私が入校してから一週間ほどして新たな王が即位した。 だから即位式には参列していないし―・・今の今まで今上魔王陛下を目にしたことは一度もない。絵姿す らないのだ―・・何やら話によるとあまりの美しさに城付の画家たちはその姿をカンパスの中におさめるこ とができないといって筆を投げてしまったらしい。 それに即位してからというもの成人がまだだという理由であまり表には出てこない、実になぞの多い魔王 なのだった。 そう―・・今上魔王は今年で成人を迎える。 そうなれば、噂が物語るこの界一美しいと名高い姿を拝めることだろう。 この魔界において見た目の"美しさ"というものはその者の"力"の度合いを示している。 今上魔王は選定の際、"歴代の魔王の中で最も強い力を有している"と長老たちに示された。 力が大きい魔王が成ればそれに比例してその代の魔界も栄える。魔王は魔界そのものなのだ―・・だが (むやみやたらに力が強ければいいものではない。古来より大きすぎる力というものは諸刃の剣といわれ るように・・) 考え込むうちに竜車は大通りを抜け夜の城の正門をくぐる。 近づけば近づくほどに夜の城の壁面は闇を思わせるほどの漆黒を妖しく輝かせ見るものを圧倒する。 竜車を降り、同行してきた使者に先導され夜の城へと足を踏み入れた。 「お荷物のほうは用意してあります部屋にお運びいたします。まず先に、他の候補生の皆様とご一緒に 書記官長ミネルバ・ジル・ヒーリュリント様から此度の"宰相選抜"に当たる説明がなされますのでこちらの お部屋にてしばらくお待ちくださいませ。」 「承知いたしました。」 通されたのは東塔にある広々とした応接間。 私以外の候補生は既にそろっているようだ。 皆おもいおもいに談笑をしていたが私が入室するとピタリとその会話をとめた。 そしてその後に続く静かなざわめき。 その様子にふっと、僅かに口元を吊り上げる。 予想通りの反応に思わず笑みがこぼれてしまった。―・・まぁ失笑とも言うが。 だが悪くはない。 仲良しこよしでやるつもりは毛頭ないのだ。 これは競争。ここにいる全員を蹴落とし上に立つための競争なのだから。 back NEXT |
<2>夜の城