出入りが慌しくなってきた。 血まみれの兵士達が次から次へと担ぎこまれては治療を受けていく。 夜の城全体が騒然としていた。 ―・・その人ごみを掻き分けるかのように一つの団体が回廊を進む。 「道を開けろ―・・!!」 担架の上に乗せられているのはすっかりと全身を赤色に染めてしまっている白 い麗人。 右往左往する回廊を進むその一団の先頭にたつのはバディだった。 「急げ!そこ!!扉を開けろ―・・!!」 部屋の中へとなだれ込むように一団は入っていく。 地平線に東方軍が現れそれを認識した瞬間、バディとハロルドは城から"跳ん だ" 風に乗ってきたのは魔力だけではない―・・おびただしいまでの血臭。 見えてきた地には負傷した多くの兵士達―・・だがその中に”彼”はいない。 気配を探して気を張り巡らせる。 やがて馴れ親しんだその気配は、少し離れた場所に見つけることが出来た。 呼び止めるハロルドの静止の声も無視して意識のないリーシェをすぐに城まで運 んだのはバディ自身だ。 軍服の至るところにリーシェの血がべっとりと付着している。 「しっかりしろ」 ベッドの上にリーシェをうつしながら、バディは無意識のうちにその手をぎゅっと 握り締めていた。 呼吸をしているのかどうかでさえあやふやだ。 ―・・ぞっと悪寒が走った。今までに感じたことのない”恐怖” 「―・・将軍、治療に入りますので」 「わかった・・」 バディはすぐにそこから離れると部屋を後にする。 部屋を出る間際、部屋の中に突如現れた強い気配に後ろ髪惹かれる思いで彼 は足早にその場を去った。 ―・・こんな時、側についていてやれないなんて 「何をやっているんだ俺は―・・っ」 * 扉を開けようとして・・・・・・・止めた。 その後も何度か手を取っ手のほうへと動かしては、体の横に戻すの動作を繰り 返した。 ―・・どうした?入ってこないのか? 部屋の中から響いた声にはっと肩を震わせる。 完全に気配は消したつもりだったのに何故わかってしまったのか―・・ ―・・お前さっきからずっとそこに立ったままだろう?人払いしてあるからとはい え誰かにそんな姿をみられたりしたらどうする?―・・いいから、入ってこい。 再度、催促される声に渋々従ってようやく扉を開けることにした。 部屋の中には薄明かりの中、リーシェの手を握り椅子に座る陛下の後姿と、未 だ青白い顔のまま眠っているリーシェの姿があった。 「こいつは何でこんなにも無茶をするかな。」 昔からそうだ。そういう奴なのだ。 「"死にたくない"からか?少しでも"生きたい"からか?」 ”忌子”ゆえの運命からか・・・? 「ふっ―・・違うな。こいつは死にたがっている。」 何を。 「っ・・」 「何故だか判るか?」 「・・・判りかねますな。」 わかるわけがない。いやわかりたくもない。何故こいつが―・・ 「そうだな、俺にもわからん。俺もお前もこいつじゃない。だがな、こいつは一人 で全てを背負い込みすぎる。見ていて呆れるほどにな。―・・それだけはお前に だってわかることだろう?」 そんなことはいわれなくてもわかっている。だって俺は―・・ 「・・・・・・・・・・・・・私はっ―・・」 「んっ・・」 「!?」 「リーシェ!?」 ベッドの上の体が僅かに身震いした。 銀色に縁取られた瞼がゆっくりと開かれる。 焦点の合わない目は虚空を彷徨い、そしてすぐ側にいた陛下をとらえた。 「へ・・い・・・・?」 掠れた声。微かに動いた唇からもれた言葉。 俺は―・・その場から立ち去った。 Back NEXT |
黎鳥飛話