『お仕事』
今日の朝食はベーコンエッグとクロワッサンのようだ。
おいしい香りが食卓から漂ってくる。
私は席に着くと礼儀正しく”いただきます”と手を合わせ朝食にありつく。
侑悟も反対側へとすわりご飯を食べ始めた。
片手には新聞を持っている。
「・・・・・・・侑悟・・食べながら読むの。よくない。」
「あぁ?いいんだよ。俺は。」
軽く流されてしまった。
何年も前から毎日のように注意していますがこれだけはやめてくれない。
朝トイレで新聞を読むのはやめてくれるようになったが・・・
じりりりりりりりりりりりり・・・・・・・・・
電話が鳴っている。
「ちっ・・だれだぁ?こんな朝早くから・・」
侑悟はめんどくさそうに席を立ち上がると部屋の隅に取り付けら
れている電話へと歩いていった。
「誰だ?」
いきなり誰だ?は無いような気もするけどまぁ・・この時間にかけて
来る人なんてあの人しかいないだろう。
「あん?何だやっぱテメェかシュバルツ。ったく・・何度もいってんだ
ろ、この時間帯はかけてくんなって。折角の優雅な朝食の時間がて
めぇの声でおじゃんになっちまう。」
電話の相手はシュバルツ・ハイドン。
男の人で日系のドイツ人なんだそうだ。
そして私たちの仲介者・・
「で?―・・あぁ・・・・・・・は?そら随分急だなお前。・・・・・あぁ・・あぁ
わかったよ。こっちは仕事がないよりましだからな。あぁ受けるぜ。
おぅ・・そうだな。じゃあいつもの通り詳しい内容はFAXで流しといて
くれ。あぁ・・・じゃな。」
がちゃんと電話をきった。
戻ってきた侑悟に私は尋ねる。
「お仕事・・・・?」
「そうだ。」
ブブブっと部屋に電子音が響いてきました。
私の真後ろにある旧式のFAXが動いている。
私は輩出された何枚もの紙を手に取り読み、読み終わったものか
ら侑悟に渡していきます。
「今日の・・夜なんだ。早いね。しかも二人。」
「あぁ。まぁ場所はあんまり遠くないみたいだからな。織、食い終わ
ったらすぐに準備しろよ。」
侑悟は流し込むように朝食を平らげた。
「・・侑悟。ちゃんと噛まないと体に良くない・・」
「いいんだ俺は。ほら、お前もちゃっちゃと食え。」
侑悟はそういうと食器を片付け始めた。
「今日は・・・・・?」
「遠距離からやるぞ。別方向から同時に二人。」
「わかった・・」
私も急いでご飯を食べます。
・・・でもしっかりと噛んで。
「じゃ、俺は先に"倉庫"いって下見してくるからな。」
「わかった・・」
そういって侑悟はコートを羽織り部屋を出て行った。
さて、お仕事の開始です・・
*
夜が来た。
ビルの上は風が凄い。
雨こそ降ってはいないもののやはり季節的にまだ寒いものだ。
冷やされた屋上の床の冷たさは少しお腹にこたえる。
『―・・織、聞こえるか?』
耳元のイヤホンから侑悟の声が聞こえた。
『今、黒兎がホテルに到着したぞ。』
スコープを除く。
距離としては約400m。
大きなホテルの前に複数の黒いベンツが止まっている。
その中から出てきた人物の顔を記憶にあるものと合致させる。
「黒兎確認。」
そのままスコープを上に持っていく。
60階建てのホテル。
55階に展望レストランがある。
そこでスコープを止めるともう一人の目標を探す。
「―・・白兎確認。窓際右から5つ目。」
『白兎確認。』
暫くすると下にいた"黒兎"もそこへやってきた。
『織、いけるか?』
「うん・・大丈夫。」
黒と白の兎が席についた。
侑悟の調べによるとあのガラスは三重構造の防弾ガラスだとか。
厚さ約40.2mm。
でも。
余裕・・
『同時にいくぞ。―3・・2・・1』
耳元で侑悟の秒読みの声がする。
私は白。侑悟は黒。
互いに眉間にねらいを定めて・・
引き金の”遊び”をだんだんと殺していって・・・
『―・・0』
撃つ。
撃鉄が落ちる。
弾丸が飛び出る。
反動で銃が肩に食い込む。
ガラスに穴が開いて。
その眉間に穴を開け貫通し。
反対側の穴から血と脳髄を滴らせるまで。
ほんの一瞬。
『―・・撤退だ。織。』
「うん。」
これが私のー・・私と侑悟のお仕事。
私があの街で生きるために選んだ方法。
それは他人の命を奪うことで成り立つものだった。
俗に言う「殺し屋」
生きるために―・・私は見ず知らずの他人の命を奪う。
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