『日課』
西暦2093年。
第三次世界恐慌に続き関東大震災、東南海大地震と相次ぐ国家的大打撃を受けた日本はかつての栄華も虚しく荒廃の一路を辿っていた。
治安は悪化し、難民が溢れかえり、経済状況は不安定なまま。
日本の中心都市と栄えていた東京も都心のその半分を無法地帯―・・暗黒街へと姿を変え、そしてそこは日本国内でもっとも危険な場所となった。
そこに行けば、金さえ払えばありとあらゆるものが手に入るといわれる暗黒街。
箸や靴などの日用品からそれこそ核弾道の所有権まで・・・ここでは地位すら金で買えるのだ。
暗黒街。
そこには世界中のありとあらゆる犯罪者が募る暗黒の街。
闇によって支配され、闇が無数に動く街。
ここには法も秩序も関係ない。
そこで生活を営むものは常に死と隣り合わせである。
そう・・ここは地獄への通り道。
ここで生きるものは世間に属さない死にぞこないの者達ばかりである。
カァー・・カァー・・
窓の外で朝日と共に烏がさわやかに鳴いている。別に不気味なんて思わない。
ここではそれが普通なのだ。
軒並み連なったビルの合間から朝日が部屋に差し込んでくる。
私は毛布を押しのけると寝間着のまま部屋を出た。
狭く短い廊下を進むとつきあたりの部屋を臆することなく開け、その中へとへ気配を殺して入っていく。
その部屋は私の部屋と比べると多少広いものの、その代わり私の部屋とは違い置いてある物が簡素だった。
その奥。
大きなベッドの上にうずくまる一つの大きな物体。
私は助走をつけてその上に思い切り飛び乗った。
「ぐぇっ。」
下からかえるを潰したような声が響いた。
すると私を押しのけ中から男が一人姿をあらわした。
「〜〜〜っ・・織!!お前なぁっ・・!!」
ゴロンと後ろに転がった私をその人―・・侑悟は睨みつけてきた。
「だって・・侑吾はこうでもしないと・・・起きない。」
「ちっ・・」
侑悟は苛立たしげに枕元においてあった煙草に火をつけるとふぅーっと煙をはきだした。
「いつもいってんだろうが・・もっと優しく起せないのか?お前は。」
侑悟は目覚めがとことん悪い。
最初の頃は私もそれなりに普通のやり方で起していたがかなりの時間を有した。
起きない侑吾が悪いのだ。
少しむっとして上目遣いに侑悟をにらみつけた。
「・・・・・・・・それとも前みたいなやり方のほうが・・良かった・・?」
「・・・・・・・・・・・・・。」
途端侑悟の顔が何かを思い出したのか嫌そうに引きつった。
「・・・・・・ちっ・・わかった。わかったから。でも頼むから明日からは膝で鳩尾狙って飛び乗るのだけはやめてくれ。いいな?」
「わかった。・・努力する。」
前、一度だけあまりにも侑悟が起きないので枕元に一発撃ち込んで起したことがある。
こっぴどく怒られたが・・
侑悟は癖のように髪をわしゃわしゃとかき回すとベッドを降りた。
「飯出来るまでに着替えて来い・・」
「うん。わかった。」
これが私の日課。
朝起きて侑悟をまず起さなければ私の一日は始まらない。
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