『雨』
その日、雨が降っていたことを思い出します。
真っ黒なお空からポツポツと。
雨が降っていました。
目の前には沢山の大人と、真っ赤な池の中に倒れている私の"両親”
だった人たち。
たっている沢山の大人の人たちの一人が私に向かって何かをつきつ
けてきました。
それは私の"両親"だった人たちの体から赤い水を流させたのと同じ
物だったので、私もすぐにあの赤い血を流すのだろうと思いました。
でもその時、それとは別の方向からパン―・・という音がしました。
私に向けられていたソレは弾けとび宙を飛んで水溜りの中へと落ちて
いきます。
続けてパン・・パン・・パン―・・
一体何回鳴ったことでしょう。
音の大きさにびっくりして耳をふさぐ私の目の前で沢山の大人の人た
ちは皆、眠ってしまいました。
何が起こったのかと首をかしげていると雨の中から一人の男の人がで
てきました。
その人は"お父さん"よりも大きくてかっこよくて。
煙が出る棒を口にくわえてその人が雨の中こちらに近づいてきます。
その顔は怒っているようでした。
「―・・ったく・・俺の通行の邪魔しやがった上にガタガタ騒ぎやがって・・
ぁん?」
その時、やっとその人は私に気付いたようでした。
「子供(ガキ)ぃ?・・・コレ、お前の"両親”か?」
その人が顎で"両親"だった人たちを示したので私はこくりと頷きました。
「お前・・泣かないのか?」
「?」
その意味がよくわからず私は首を傾げます。
男の人は更に顔をしかめると頭をぼさぼさとかき回し、「ちっ・・妙なのに
出会っちまったな・・ついてねぇ・・」といいました。
私はそんなその人の様子をじっと見つめます。
するとその人は私の視線に気付いたのかうっとうめきました。
「そんな目で見るな。・・・まっ死にたくなけりゃ逞しく生きてくんだな。じゃ
あな。」
その人は早口でそういうと私の前を素通りしていきました。
私はその人の後についていきました。
その人は私よりも大きいためとても歩くのが早いです。
それでも私はそれに遅れぬようにと必死で付いていきました。
暫くするとその人は急に立ち止まり私のほうに向き直りました。
「・・・・なんで付いてくる?」
とても困った顔をしています。
それでも私が何も言わず只その人をじっと見上げているとその人はやが
て観念したように深く溜息をつきました。
「お前、名前は?そんぐらいいえるだろ?」
「○○ ○○○・・・」
もう今ではその名を思い出すこともできません。
それを聞くとその人はしゃがみこみ目線を私に合わせると私の頭をポン
と叩き、「もうその名前は忘れろ。」といいました。
「いいか。ここで生きていきたいなら地べた這いずり回って泥食ってでも必
死こいて生きるんだ。それが嫌なら死ね。お前はどうしたい。」
有無を言わせぬその強い口調に私もはっきりと応えました。
「生きたい。」
「よし。ならお前は今日から"織(オリ)”だ。”神之宮(ジンノミヤ) 織”。今
日からはそれがお前の名だ。―・・いいな?織。」
こくりと頷きます。
そして私はその日から―・・その瞬間から”神之宮 織”になりました。
それが私と”神之宮 侑悟(ユウゴ)”との出会いでした。
戻 進