十.
終業式も終わり、廊下には夏休みを満喫するぞ!という空気を持った生徒で
溢れかえっていた。
洋子もその浮き立つ波に紛れ、正面玄関へと足を運んでいた。
相変わらずその周りには取り巻きの女子達がいる。
他愛もない会話をしながら職員室の前を通り過ぎる。
と―・・
「あれ?こんなトコに絵なんてあったっけ?」
取り巻きの女子の一人が壁にかかっていた一つの絵に目を止める。
洋子や他の女子達もその言葉に足を止めた。
「何々?」
「あー、これってあれじゃない?ホラ美術室に誰かがおいてったってやつ。」
「あ〜、あの曰くつきのね〜。」
「確か先生の誰かが試しにコンクール出したんだよね?でも結局誰が書いた
かわからないってことで章もらえなかったって言う話。今度美術館に寄贈する
っていってなぁ・・」
「何か気味悪いけど・・綺麗な枝垂桜・・」
一人が感嘆の溜息を漏らす。
他も同様に頷いた。
「ホント誰が描いたんだろうね?ウチの学校美術部なんて形だけで部員なん
て誰もいないし―・・って洋子!?どうしたのっ!?」
「えっ―・・?」
先程から一言も発さない洋子の両の目からは涙が溢れていた。
本人も気付いていなかったのか。
不思議そうに頬の涙に触れている。
「どうしてだろう・・?この絵を見ていたら急に・・」
悲しくて泣いているのではない。
胸の奥に失ってしまった何か暖かいものを思い出したから。
何故だか無性に会いたくなってしまった。
(誰に・・・・?)
分からない。
でも。
(もう・・・合えない・・・)
その場に膝を突き泣き崩れてしまった洋子を回りの女子達はただ、オロオロと
見ているしかなかった。
頭の中に響く声。
―・・さよなら
「さよ・・・なら・・・」
嗚咽の中で小さく洋子は呟いた。
失ってしまった何かにむかって。
さようなら・・・
小高い丘の上から街を見下ろす少女と男。
「・・・・・いきましょう」
「はい」
強い風が吹いた。
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