海パンな王子様   

あぁ!!夏!!

暑くと鬱陶しくって長期お休みに入ったと喜んだのもつかの間、大量の

宿題がついてくる夏休み。

友達が多いほうではないから毎日にようにどこかに遊びにいくこともな

く、必然的にいまどきエアコンが設置されていない我が家で過ごすこと

が多い私にとって、夏休みとはあまり待ち遠しいという程のものではな

かた。−・・そうそれは去年までのお話。

今ようやくみんなの気持ちが理解できた!!あぁ!!夏休み!!

私がどれだけこのときを待ちわびたことか!!

(図書室にはいきたいが)学校に行かなくていい!!=先輩とあわずに

すむ!!

先輩だってもう三年生。そう、世に言うお受験生!!

一々、私を呼び出してどうこうする暇なんて無いはず!

春休みと違って休みも長いし・・・あぁ素晴らしきかな一ヶ月半の長期

休暇!!

ひょっとしたら一度ぐらいは呼び出されるかもしれない・・・・・と身構えて

いた時もあったが、早3週間。一向にその気配もない。

「よしっ!!!」

思わず自室にて一人ガッツポーズを決めてしまうぐらい嬉しいのだ。




                    *




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

あぁ、そうですよね。えぇわかってますよ。

人生そんなに甘くないって。

先輩と遭遇して半年ちょっと。短いけど二日とおかずいびられ続ければ

ある程度の”いやな予感”は予想できるんですよ。

・・・・・・ただちょっと普通の毎日に現実逃避してただけで

しかし何でまた・・タイミングが悪いというか何というか。

「やぁ、カエちゃん」

よぉ、カエ

「偶然だね、こんなところであうなんて」

相変わらずのん気なツラ下げてこんなとこでなにやってんだよ

「友達と一緒にきたのかい?」

俺を差し置いて優雅に友達と遊んでるなんていいご身分だよなぁ?

−・・以上、訳終了。

口には出さないが目が語っている。

先輩、目が笑ってません。怖いですって。

「おっお久しぶりです先輩。・・・お変わりないようで」

顔が引き攣るのを必死に押し殺す。

友達に連れられてやってきたのは自宅から電車で一時間半のシーズン

真っ只中の海水浴場。

人がひしめく中出会ったのは美女に囲まれた海パン姿の先輩。

「高倉君、だれ?」

右にいた白い水着のボインなお姉さんが私に鋭い視線で牽制しつつ(ひぇ

ぇ)先輩に向かってかわいらしく小首を傾げてみせた。

「同じ学校の後輩。役員が一緒なんだ。・・・・あぁそうだカエちゃんあとで

メールしようとおもってたんだけど・・・・いま、いいかな?文化祭のことで・・

すぐ終わるから」

「え?」

「ね?」

聞き返すと黙ってうなずけという射殺すような視線がふってきたので

首がもげるんじゃないかってぐらい縦にふった。

「ありがとう。ごめん、皆。先、戻っててくれる?すぐいくから」

人のよさげなナイススマイルでお姉さん方を先に行かせた先輩は人の

腕をつかむと人目につかない物陰へと私を強制連行した。

そして−・・

「いっったいいいい!!!」

頭をどつかれた。ぐーでだ。相変わらず容赦がない。しかもその拳をぐり

ぐりと脳天にねじ込むように押し付けてくれるもんだからいつまでたって

も痛みがひいてくれない。倍増しだ。

「ぎぶぎぶ!!先輩ギブですって!!」

「あーーーーーーー・・・スッキリした〜」

「私はすっきりしませんって。」

「うるさい」

今度は脛に一発。地味に痛い。

「こちとら来たくもないのに連れてこられてイライラしてんだよ。」

「さっきのお姉さんたちにですか?」

「あ?あぁ、同じ予備校なんだよ。野郎たちが俺をダシに女子どもつりや

がって・・・・・たく俺は餌じゃねぇってんだよ」

成る程。だから”役員”が一緒などとありもしないことをいったのか。

同じ学校だったらすぐばれる嘘だ。

「いーじゃないですか、美人さんばっかで。しかも水着。ウハウハじゃな

いですか」

「お前はおっさんか。香水つけすぎ、メイクはバリバリで脂肪の塊無理に

よせて突きつけてこられたって鬱陶しいだけだ。第一、あのぐらいの顔

は見慣れてて今更って感じだしな」

うーわー、出たよ、モテ男の発言。

先輩、いつか誰かに刺されますよ。

「やれ焼けるから嫌だの、化粧が崩れるから泳ぎたくないだの・・お前ら

海に何しにきたんだよ。一人で泳ごうにもまとわりついてくるし・・・・・・・

あーーーーもーーーー!!!」

どうやら相当溜まっているご様子だ。

大変っすね。とつぶやいたらまたグリグリされた。今度は両手で、こめか

みに。

「っっっだぁあああああああああああああああああああ!!!」

「お前のその能天気な顔見てるだけでいらいらするーーーー!!」

「んなっ・・・・・・・・ただの八つ当たりじゃないですか・・」

「あぁん?なんかいったか?」

「いえ、何も」

チンピラみたいですよ先輩。

「そっ・・・それよりも先輩受験生なのに遊んでていいんですか?」

「バーカ。俺はもう推薦決まってるようなもんだから余裕なんだよ。お前

と違って成績いいから。」

「ぐっ」

そうだった。この人顔もよければ頭もいいんだった。

不公平だー。神様こんなの不公平ですよーー!!

「てか、お前こそ宿題やってんのかよ。」

「うっ」

ダラダラと冷汗。実は半分もまだおわっていない。

特に数学の大和田が半端ない量をだしてきやがっているのだ。

「ふぅん?その顔はやってませんって顔だな。」

「そっそんなことは・・」

「”夏休みは宿題で手一杯なので呼び出しだけは勘弁してください。せ

めて宿題が終わるまでは!!”って土下座してたのはどこのどいつだっ

たかなー?」

「うっ・・・だ・・誰だろうなー・・」

恥を忍んでお願いしたおした記憶はまだ新しい。

宿題もあるのだが先輩に呼び出されないための予防線をはったまでだ。

「心優しい俺はストレスためつつもその頼みをきいてやってるってーのに

その誰かさんはまだやってもいないと?」

「四分の一は終わりましたよ!!−・・あ。」

しまった。

「ほぉーぅ?夏休みはじまって3週間ちょい・・・まだ半分もいってないと?」

やばい。非常にやばい。ものすっごく嫌な予感が・・・

「おーい木村ー?」

そこに現れた天の助け!!

「黒田君!!」

その名前に先輩の片眉がピクリと動く。

「何やってんだよ、戻ってくるの遅いから迷子になったんじゃないかって

皆心配して・・・あれ?」

近づいてきた黒田君が先輩に気付いた。

「確か・・・・・高倉先輩?」

瞬時に先輩は猫という名の仮面をかぶる。

「こんにちわ、黒田君。」

「ども。」

今がチャンス!!

「ごっごめんねー黒田君。心配かけちゃったみたいで。たまたま先輩に

あってさーつい話し込んじゃって。皆まってるんでしょ?戻ろう!!います

ぐ戻ろう!!じゃっじゃあ先輩失礼します!!また今度!!!」

「木村?」

「そう、気をつけて」

「?じゃ、失礼します。」

不振がる黒田君の背中をぐいぐい押して逃げるように私たちはその場を

後にした。




                      *




その夜。

先輩から電話が入り怖さのあまりに軽く無視していたら10分後・・・電話

メール電話・・・と一分おかずに携帯がなり・・・・

結局一時間後。執拗になりやまない携帯に根負けした私は電話をとって

開口一番に怒鳴られ、あれよあれよというまに夏休みが終わるまでの

間、先輩に宿題をみてもらう羽目になった・・


前言撤回−・・夏休みなんて大嫌い。








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