放課後。

私は一人本を読んでいた。

場所は人気のない古びた図書館。

サボリがちの図書委員はカウンターにおらず、日々図書館に入り浸っ

ている私は図書委員でもないのに司書のお姉さんにちゃっかりと

戸締りを頼まれてしまっている。

ギリギリの時間まで本を読んで帰る。それが私の日課。

誰もいないので(ほぼ貸しきり状態だ)行儀悪く本棚の前に座り込み

本をよみすすめる。

お尻の下には長時間座っても痛くならないようにと持ち込んだクッ

ション。

そろそろ寒くなるからミニ毛布とか必要かなぁ。

あっ司書室から電気ストーブでも拝借しようか延長コードもいるなぁ

とか考えているとガラガラっと扉が開く音。

めずらしい。お客のようだ。

ここからは丁度死角になっていて見えないが足音からして二人の

ようだ。

本棚の隙間からのぞきこむと男子生徒と女子生徒−・おいおい、も

しかして口ではいえないあーんなことやこーんなことをするつもりじゃ

ないでしょうねお二人さん。

いくら人がいないとはいえ(っていうか私いますよー)学校なんだから

そういうことはやめてほしいものだ。

んんっ???

あれはもしかして学内3大美女に数えられる3組の白木さんではない

ですか。

おぉっと・・んでもってお相手は・・・・・誰だ?あぁ〜そうだ二年の高〜

なんとか先輩!女子にすごく人気があって・・・・・思い出した!高倉先

輩だ!!!

ほぉほぉ。この二人がねー。うんまさに美男美女カップ・・・ルん??

違う?あぁナルホド。告白タイムというやつですな。

どうやら白木さんが高倉先輩を呼び出したらしい。

若いねー。とか同年代らしからぬ感想をもらしつつその光景を盗みみ

る。いやぁ・・・だって気になるじゃない。こういうのってそうそう見れる

もんじゃないしー。いいのいいの。ばれてないんだから。

いい感じの空気が流れる。絵になるねー秋だけど春だねー

しかし何だ。一人身の私としては非常に今の自分の行動に虚しさを

覚えてしょうがないよ、うん。

そもそも何で先にいた私がこんなにこそこそしなきゃならないんだ。

なんだかイライラしてきたぞ〜。さっさと返事してでていって頂戴。

そう願いつつ会話に耳を傾ける。

さぞらぶらぶでロマンチックな展開を迎えていると思いきや−・・んんっ!?

(おいおいおいおいおい・・・)

白木さんの綺麗な顔が悲しみにゆがむ。

あぁ美女って言うのは泣き顔も綺麗だ。世の男供がみたら一発で陥落し

てしまいそうな泣き顔・・・えっ!?

(うそー。白木さんがふられたー!?)

高倉なんて奴だ。

私が男だったら0.01秒でうなずき返すのに首を横に振りやがったよ。

まさか断られるとは思っても見なかったのだろう可哀想に白井さんはう

ちひしがれた様子で図書室を出て行ってしまった。

(美女でもふられることはあるのねー)

勿体無い。高倉、なんて贅沢な奴なんだ。それとももう彼女が・・?いや

先程の会話の内容からしてそうではないだろう。しかし勿体無い。

まぁ滅多に見ることのできない人の告白タイムも見終わったことだしそろ

そろ読書に戻るか・・・と視線をはずした。

男のほうもすぐに出て行くだろう。ていうかさっさと出てってくれ。

「-・・ったく。だから女はめんどくさいんだよ。ふられたぐらいで一々泣い

てんじゃねぇっつーの。」

んんんんんんんっ!!!!?????

反射的に私は振り向いた。

空耳か?空耳なのか?

確かに今、声が聞こえた。

先程「君の気持ちは嬉しいよ・・でもごめん、僕は君の思いにこたえるこ

とができないんだ」とかってファンの女子がきいたら発狂しそうなぐらい

甘エロボイスでお断りを入れた声と同じ声がきこえたのだ。

「自分が一番だって顔しやがって。媚びれば何でもうまく思ってんじゃねぇ

ぞ、胸糞悪ぃ。ありゃ絶対性根悪そうだよな。」

性根悪そうなのはあんた・・・・ではなく。

学年TOP成績優秀某有名大学推薦間違いなしでいつも皆に優しくて実は

影では王子様なんていう恥ずかしいネーミングで呼ばれてるけどそれが違

和感なくあっちゃう素敵なお兄様☆キャラな・・・・・・・・うぇえええ!?

きっと私は童よ・・・・じゃない動揺していたのだろう。

あちらからこっちがみえるわけがないのに顔がこっちをむいた瞬間、目が

あったと錯覚して「ぎゃっ」なんて情けない声を上げて後ろへ倒れてしまっ

たのだ。

脇に積んであった本やらなんやらが巻き添えをくってどたんばたんと雪崩

をおこす。

痛みにのけぞりかえり目を開けた次にまっていたのは今までの人生の中

で味わったことがないほどの最大限の恐怖。

特盛の笑顔が私を見下ろしている。

「はっ・・ははははは・・」

「大丈夫?-・・ってか見た?聞いた?」

目が笑ってない。口元天使なのに目が悪魔だ。

恐怖に突き動かされ思わずこくりと頷いてしまった。

さらに笑みが深まった。ひぃっ

「どこから?」

「さっ・・・最初から・・・」

できればもう少し離れてほしい。いろんな意味で心臓に悪いし、いつの間

にか握られた(つかまれた?)手もさっさと離してほしい。痛い・・・

「っっここここここのことは誰にもいいませんからぁ!!むしろ全て忘れま

すから!!絶対絶対誰にもばらしませんから!!」

「まぁそれはもちろんだよな。」

「はい!!」

あぁなんでこんなに下手にでてるんだ私。

何もやましいことなんてしていない。私は悪くないのに−・・いやだめだ。

絶対逆らったら殺される。うん瞬殺。ってか誰も信じてくれない上に下手し

たら嘘吐き呼ばわりでハブだ。

「でも確実にいわないっていう保証もないよな・・」

「滅相もございません!!本当ですって!!絶対いいませんから!!」

私の必死の訴えにも関わらず悪・・・じゃない先輩はうーんと何か考えてい

る。−・・その瞳がどことなく悪巧みを考え・・もとい楽しそうなのはきっと私

の気のせいなのだと信じたい。

「あんた名前は?後クラス。」

「いっ・・一年五組の木村 加絵(カエ)です・・けど・・」

「ふーん。・・・最後にもう一文字つけたしたら?名前負けするだろうけど。」

うるさい。散々言われなれてきたから今更だがこの男にいわれると余計

に腹が立つ−・・が、顔には出さない。だって怖いし。

「じゃ、カエ。」

呼び捨てかよ!!

「あんた今日から俺の手下その一な。」

「はっ!?」

と、声を上げたら”何?文句ある?”という射殺すような視線が投げつけら

れたので”なんでもないです”と即答でおこたえしましたよ。あぁ根性なし・・

「拒否権はないから。俺にさからったら学校中に俺の彼女ですっていいふ

らしたあげく」

何と!?それは全女子の敵になれということですか!!!

「・・・・・カエにこっぴどくふられて捨てられたっていうオプションもつけてあげる

よ?」

「下僕とお呼びください!!」

そんなことされてみろ。

転校どころかこの地域からも出て行かなきゃ行けないじゃないか。

考えただけでおぞましい・・・理不尽だ。理不尽すぎる。

こちとらたまたまその場に居合わせただけなのに。

むしろ私の聖域とも呼べる憩いの場に土足で踏み込んできたあげく勝手に

自爆したくせに(自爆したのは私も同じか)精神的苦痛をおわせてくるこの

男こそ加害者で、私は立派に被害者なのに!!!

「何?何かいいたそうだけど」

「いえ!決してそのようなことは!!」

「本当に?」

「はい!!」

もう半分涙目だよ、私は。。。










それ以降。

私の聖域でありマイスウィートルームになりつつあった図書室は悪魔いや、

大魔王に汚染され事あるごとにそこに呼びつけられては意味もない雑用を

押し付けられては走りまわされ・・・・立派に手下として日々役目を果たして

いる。

(一年半・・そうよ!!あと一年半我慢すれば・・・っ!!)

そうして彼女はくじけそうになる時も未来の平穏のために自分を叱咤し続け

先輩が卒業するまでの一年半を耐え抜いた。







−・・某有名大を何故か蹴ってすぐ裏手にある大学に進学した先輩が、その

後も我が物顔で高校に現れては彼女を手下その一として扱うのはまた別の

お話。














→NEXT「理不尽な王子様」




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不幸中の不幸