事の始まりは能天気な父親の声で・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
目が点になるというのはこういうことを言うのだろう。
電話越しに聞こえてくる能天気な声。
クソ・・念じるだけで人が殺せるなら今そうしたいよ・・
「父さん・・今・・・・・・・・・なんてったの・・?」
『うん、だからね、父さんの会社倒産しちゃったんだよ。あっ駄洒落じゃないからね
っ!!』
電話の向こう側では母親がごめんね〜灯ちゃん〜というなんとも可愛らしい声で
謝っていた。
『で、さっきも言ったとおり灯ちゃんには結婚してもらうから。』
「はぁっ!?」
父親の会社が倒産した・・
そこまでは・・・・・・・まぁあまりよくもないがとりあえず話の流れとしては良しとしよ
う。
でも・・・
「なんでそこでいきなり私が結婚しなくちゃいけないのよっ!!!」
訳が分からない。
「何でっ!?誰とっ!?何時っ!?」
『あっ・・灯ちゃん・・落ち着いて・・』
あらん限りの大声で叫んだためか父親の声が気圧されて小さくなっていく。
これが落ち着いていられるか。
鳥越 灯。この世に生れ落ちて17年弱・・
高校は実家から離れた所に入学したため今は寮生活を送っている。
モットーは平々凡々に生きること。
何事もなく、ただ平穏無事に人生をおくれればいいのだ。
・・・・・なのに・・
それは夏休みを目前にしたとある休日の早朝にあっさりと壊されてしまったのだ。
『会社は一度潰れちゃったんだけど、借金とかそういうのはないんだ。父さんの古い
友人が助けてくれてね。彼のおかげで社員も路頭に迷わずにすみそうだし、父さんも
また一から新しい会社を作れるようになったんだ。で・・・・・・・』
父親ののほほんとした声がまだ喋り続ける。
『父さんも忘れてたんだけど昔彼とある"約束"をしててね。援助してもらう変わりに
その"約束"を果たすことを条件って提示されちゃってね〜。』
「その約束って・・・・・・」
『うん。彼の息子さんと灯ちゃんを結婚させるって・・』
「却下!!」
『うえぇ〜〜〜??』
まったく・・いい年をこいてなんて声を出すのかこの親父は。
激しく却下だ。
「何で私がそんな約束のために見ず知らずの男と結婚しなきゃいけないのよっ!!」
『うぅ〜・・でも灯ちゃん。そうしなきゃ父さん働けないんだよぉ〜』
泣くな。これが自分の父親かと思うと実に情けない・・
『もしもし灯ちゃん〜?』
ぐずる父親を押しのけて母親が受話器を手に取ったようだ。
父親はもう駄目だ。
こうなったら同性である母親に頼るしかない。
「母さんも何とかいってやってよ!!娘をそんな借金の肩代わりみたいに売り飛ばそ
うなんて―・・」
『灯ちゃん・・』
だがその願いも虚しく。
『パパとママを助けるとおもって。ね?』
だぁ〜!!もぅ駄目だ〜!!
話にならない!!
『大丈夫よ〜。雅人さんの息子さんなんだから絶対カッコイイわよ?素敵な子よ〜?』
「いくらかっこよくてもいきなり結婚はないでしょ!!」
『"嫌よ嫌よも好きのうち"って言うでしょう?』
「そうじゃなくって!!というかまだあってもいないのに!?」
『あっ大丈夫よ〜。すぐにあなたを迎えにいくって言ってたから〜vあなたのこれからの
ことは全部雅人さんたちに任せてあるからv頑張ってね?』
「はぁっ!?えっちょっ・・!?」
『父さん達も頑張って新しい会社を軌道に乗せるから灯ちゃんも幸せになるんだよっ』
『結婚式にはちゃんといくからねぇ〜v雅人さんと、息子さんに宜しく〜v』
がちゃ。
プープー
無情にも電話が切られる。
私は受話器を片手にただ唖然とするしかなかった。
怒りのあまりに受話器を持つ手が震え僅かにそのプラスチックの表面にヒビが入った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・一体なんなのよ〜〜〜〜!!!!!!!」
私の叫び声は虚しくも廊下に響いていくのであった・・・・・・
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