「それで?少年―・・おまえはどうしたい?」






”ドウシタイ?”と目の前の女はその口で言った。


どうしたい・・・・・?
どうすればいいのか。
そんなこといきなりいわれたってわかるわけないじゃないか。

突然こんな目にあって・・
こんなわけのわからない世界に飛ばされて・・ただの健全な高校生である俺にどうしろっていうのか。

しかもその上、厄介な"戦争"に巻き込まれてしまった。
"戦争"なんてゲームとか教科書でしか見たことない俺の目の前に広がるのは荒れ果てた荒野と、胸が苦しくなって吐き気がこみあげてくる光景が広がる世界。
ちなみに俺がこの世界に"飛ばされて"からとった行動といえば胃の中身を全て地面にブチ撒けてしまうことだった。

そしてそんな俺がこの"戦争"の決着の鍵だという―・そう目の前の軍服女がほざきやがった。


わけわかんねぇ。
マジでわけわかんねぇけど・・・けど・・・・



「俺は―・・あんたについていく気はない。」

「ほぉ?」


軍帽を目深に被った女の瞳がキラリと光った。


「それではお前は"アチラ"に組するというのか?」

「わからない。」

「わからない?」


鸚鵡返しに聞き返した女がすぃっと肩をすくめて見せた。


「ではどうするというのかね?」

「それも・・・・わからない。」

「はっ!―・・いいかね少年、これは遊びではないのだよ。」


鼻で笑った女は小さな子供を諭すように優しくいった。


「戦争だ。そして先ほどもいったように―・・君のこれからの行動によってこの状況は大きく変わっていくのだよ?」

「それはわかってる!!でもー・・」


俺は声を荒げた。
女の冷たく光る赤い瞳―・・俺のいた世界にはあるはずがないその瞳を真正面から見返した。


「あんたのやり方は気に入らないし認められない!―・・そもそもあんたのやり方は間違ってる!!そんぐらい馬鹿な俺でもわかることだ!!」


肩で息をしながら一気にまくし立てる。
興奮のためか頬が上気している。

俺が言い放ったその言葉に、さっきからずっと女の背後で直立不動している怖そうな軍人が、更に凄みを増した顔でこっちのほうを睨みつけてるし緊張はピークに達しまくってる。

出来るものなら今すぐにでもここから逃げ出したい。
張り詰めた緊張感―・・こんなの期末テスト一週間前のクラスの中とかでしか味わったことないし、それにこの背筋に何ともいえない悪寒が走る"殺気"なんてものを生まれて初めて体験している。

怖い。逃げたい。汗が噴出す。シャツがびしょびしょだ。死ぬんじゃないか。あ〜制服のままできたから服の変えなんてねぇよ。それに汗臭い。流石にこんだけ風呂に入らなかったら俺でも。殺されそうだな。死ぬのか。風呂はいりてぇ・・。逃げなきゃ。


思考がグチャグチャだ。



「ふっ・・はははははははははっ・・」



女が声高に笑った。
突然響いたその笑い声に俺は思わずびくんっと肩をゆらしてしまった。
いきなり笑うんじゃねぇよ・・・ほら見ろ。さっきから俺のこと睨んでた後ろの野郎もびっくりした顔してるじゃないか。


女は一通り笑い終えると満足したのかそのまま椅子の背もたれに背をずっしりと預けた。
形の良い赤い唇がにぃっとつりあがる。


「―・・いいだろう。全く・・お前は面白い少年だな。―・・ツァイ」


後ろに控えていた軍人が名を呼ばれて女の手に何かを差し出した。
女が立ち上がる。


「愉快だ。実に愉快だよ少年。こんなに笑ったのは久方ぶり。そしてこの意見してきた者を見るのも実に久方ぶりだ。」


すらりとソレを鞘から抜き放つ。―・・刀身がきらりと光った。

何だ・・武器はこっちの世界も同じようなの使ってるんだ・・日本刀に似てるな。


「あぁでも悲しいよ、少年。出来ることなら拒否の言葉は聴きたくなかったものだ―・・今から君は敵だ。」


心のそこからそう思っているのだろうか―・・俺の呼び方が”お前”から"君"にかわってる。


「そして私は私の利益になりえないものは早々に摘み取ってしまうタチなのだよ。」

「あぁ・・見るからにそうだよな、あんた。」

「ふっ・・ならば話は早かろうて?」


しゅっと顔面に切っ先が向けられた。


「苦しみを長引かせること無く、一瞬で終らせてやるよ。あぁそうだ―・・最後ぐらい君の本当の名前を聞いておくのもいいかもしれないね。」

「・・・・・・佐木 徹平。あんたは?」

「私か?私はシュウホウだ。」


そして剣が高く掲げられた。


そうか・・死ぬのか・・


シュウホウが微笑んだ。


死にたくないな・・


「さらばだテッペイ。」



剣が。振り下ろされ。




                             *




青空が続いている。
僅かに風が吹いてあたり一面においしげった草がザザザァ―・・と音を立てて揺らめいた。


なんとなく。ただなんとなくその大空に手を伸ばしてみる。


―・・俺は生きている。


あの時、俺が死にたくないと願ったからか、ただの偶然か―・・それとも運命によって生かされているだけか。

剣は確かに俺を傷つけた。
でもそれは僅かに俺の肩口をかすめただけ。
あの後、すぐに俺を助けにきた"今の俺の仲間たち"によって俺は助けられた。

結局俺はシュウホウの国にも、シュウホウが"アチラ側"とよんでいた国につくことも無くもう一つの勢力―・・どこの国にも属さないレジスタンス的組織―・・に厄介になることとなったわけだが・・


それでも俺はこの世界で生きている。この世界で生かされている。


まだもとの世界には戻ることが出来ない。いや果たして戻ることが出来るのか・・それも定かではない。


でも俺は―・・



「テッペイ―――!!」



遠くの方から名前を呼ばれ身体を起すと丘の向こうから駆け寄ってくる人影がちらほらと・・


「お―い!!こっちだ―!!」


手を振りこたえてやる。

さぁ・・そろそろいくとするか・・

腰を挙げ立ち上がる。


もう一度風が吹いた。
それにつられ空を仰ぎ見る。

既に着慣れたこちらの服を風がばさばさと音を立てて揺らしていく。
風が心地よい。

あぁ・・そうか・・


「空は・・何処でも同じなんだよな・・」





さぁいくとしよう・・この俺の長い長い"旅"に決着をつけるために。



                                                        FIN


世界の始まりと終わりの世界。


久し振りに短編です。
こういうものはすぐにかけるのに中々他のが進みません(汗

何がかきたかったかというと・・・

ズバリ「軍人」です(オイ

ちょっとしかでてないけどね(笑