年始めの王子様
一体全体どうしてこんなことになったのか。
今一状況を把握しきれていない、というか把握したくない脳みそとは裏腹に
体は勝手に動いていってくれる。
早朝。息も白く手がかじかむほどに寒いのに境内には人が絶えない。
普段は閑散としている場所なだけに何とも違和感があるが、それもこの時期
特有の光景といえるだろう。
そんな中を例年のごとく、初詣にやってきた私。
着物なんて洒落たものはきていない。小さいときはよく着させられていたが
動きにくいしすぐ汚すしで中学にあがるころには着なくなった気がする。
ダウンジャケットにマフラー、手袋、帽子・・防寒対策はバッチシな格好だ。
「すっげー。ほんとよくもまぁこんなに集まるよな。」
小声でもらされた独り言とも思しき声が左となりから聞こえてくる。
「どっからわいてでてくんだっつーのな。ったく歩きにくくてしょうがねぇ。」
人ごみの中顔には王子様スマイルを貼り付けたままその口から漏れるのは
不満だらけの低い声。
「もっと家でゆっくり寝てやがれってんだよな。なぁ?」
私だけにしか聞こえないほどのその毒舌ボイスは新年を迎えても相変わらず
ご健在のようで。
「ははっ・・そうですね」
としかいいようがない。
「なんだお前、そのやる気のない返事は。あぁ?」
「痛い!先輩痛いですって!!」
人ごみの中逃げ道がないのが災いしてかいつもより至近距離にある先輩の
体から繰り出されるすね蹴りはピンポイントでいい位置にヒットしてくれたり
してくれる。
−・・ようはいつもの倍増しで痛いって事。
「・・・先輩こそ混むのがいやなら家で寝てればいいのに」
「馬鹿野郎、そこは気分の問題だろう、気分の。」
「あぅっ」
聞こえてたらしい。もう一発、今度はわき腹にきめられた。
夜中まで起きて除夜の鐘をテレビの生中継で見ながらそのまま昼過ぎまで
寝正月を決め込もうと思ったのがほんの六時間ほど前。
でもって鳴り響く電話でたたき起こされたのが二時間前。
いつもの問答無用の先輩のお言葉で寝不足のまま家を出たのが一時間前。
そして中々先に進まない列に先輩と並び始めたのが30分前だ。
(うぅっ・・寒いよー。眠いよー。)
全くついてない。新年早々ついてない。
どうやら一緒に行く予定だった友人が風邪でいけなくなったからというのが
理由らしいのだがそれならもういっそのこと家から出ないでほしかった。
わざわざ私を呼び出してまで初詣に来る必要などあるのだろうか。
というか先輩なら他の人から誘いはいくらでもあるだろうに。
(あぁ・・ついてない)
「辛気臭い」
「うぅっ」
また小突かれた。
*
やっとの思いでたどり着いた本殿。
30分近く並んでお参りはたった数秒にも満たないなんてなんか滑稽だ。
「おい、おみくじするぞおみくじ」
「・・・元気ですねー先輩」
子供かっ。と突っ込みたくなるがあえてしない。そんなことしたらそれ以上の
暴力という名のツッコミがかえってくるに違いないから。
お金を払ってがしゃがしゃと棒の入った木箱を振る。
出てきた棒の番号をアルバイトの巫女さんに伝えて紙切れをもらう。
「こんな紙切れ一枚に書いてある文字で今年一年の運勢決まるんだぞ、
馬鹿みたいだよな。だがそこが面白い」
「私あんまりそういうの信じてないんですよねー」
「おまえつまらんやつだなー。楽しめよ」
先輩と一緒じゃ楽しむものも楽しめません、という言葉は飲み込んでおこう。
「おっ。大吉ー。やっべ俺まじ最高だ!」
おぉー先輩のテンションだだあがりじゃないですか。でも先輩、最高なのは
先輩じゃなくって先輩に大吉の称号(?)を与えた神様ですよ。
「おまえは?」
「あ”っ」
まだ開けていない私のおみくじを先輩が横取りしてあけはじめる。
ひどい・・・確かに信じてはいないけどこういうのを開けるのはどきどきして
楽しめるのに。
「おっ」
ん?なんですか先輩その顔は。
「よかったなーカエー」
にこやかスマイルが逆に嫌ですよ、先輩。
ほらよ、と渡された紙切れには・・・
「凶っ!?」
なんてこったい神様。あなたまで私を見捨てるか!!
「おまえついてないなー」
にしし、と笑う先輩。あれですか人の不幸は蜜の味ってやつですか。
「まーでも?大吉の最高な俺様が側にいるんだし、少しぐらい俺の運のおこ
ぼれにあずかって多少ましな一年になるんじゃないの?」
感謝しろよ、ととても上から目線でいわれたって余り嬉しくないですよ。
というか先輩がいるから私の運勢急降下中なんじゃ・・・・
「んん?なんだお前その顔は。な・ん・か文句あんのかー?」
「いいえありません!!滅相もございません!!先輩さまさまです!!」
あぁ・・・どうか神様仏様。
どうかどうか先輩にいじられる回数が減りますように。願わくば平穏な生活
が取り戻せますように。